勇気あるフランス人女優からの逆オファー

ヴァーホーヴェン監督は、初めは本作をアメリカで製作するつもりだった。俳優も全員アメリカ人を起用する予定で、キャスティングをスタートさせた。ところが、事態はすぐに暗礁に乗り上げる。「これほどまでに道徳に囚われない映画に出演してくれるアメリカ人の女優は、ただの一人もいなかった。僕がよく知っている女優にさえも、この役を引き受けることは『不可能だ』と言われたんだ」と、ヴァーホーヴェン監督は当時の様子を振り返る。フランスを代表する女優の一人であるイザベル・ユペールが、原作を読んだ時から、もし映画化するなら是非ミシェルを演じたいと願っていた。フィリップ・ディジャンに会った時に、「モデルではないが、あなたを思い浮かべていた」と言われたことにも感激していた。しかもユペールにとって、ヴァーホーヴェン監督は特別な存在だった。既にデビューをした後だったが、若い頃に監督の『ルドガー・ハウアー/危険な愛』を観たことが、本格的に「“女優”になろう」と決めたきっかけの一つだったのだ。6~7年前、シネマテーク・フランセーズで同作が上映された時にもプレゼンターを務め、そこでヴァーホーヴェン監督との面会も果たしている。ユペールから出演を切望されたサイドは、「どうして僕たちはアメリカで映画を撮ろうと奮闘しているんだろう?これはフランスの小説で、イザベル・ユペールが出演を心から望んでいるというのに、僕たちは愚かだ!」と監督に直訴したという。ヴァーホーヴェン監督も、「彼は正しかった。今なら僕もわかる。これほどレベルの高い信憑性のある作品は、アメリカで撮ることはできなかった」と断言する。こうして、ヴァーホーヴェン監督にとっては初めてのフランスでの撮影が始まった。