生き残るのは誰だ!?

conception

構想 : 脚本流出、企画中止、
一夜限りの朗読劇─製作までの波乱の道のり

2014年4月19日、ロサンゼルスのエース・ホテル劇場に集まった1600人の観客は、期待に胸を躍らせていた。インディペンデントの映画作家を支援するNPO団体フィルム・インディペンデントを援助するために開かれたチャリティーイベントで、タランティーノの脚本の一夜限りの朗読劇が上演されるのだ。満員の観客のおそらく全員が、数か月前に勃発した“事件”を知っていた。関係者数人にしか渡していない新作映画の脚本が流出し、激怒したタランティーノが製作中止を発表したのだ。この日朗読されるのは、その脚本を大幅に書き直したものだ。3日間のリハーサルを指揮したタランティーノ自身がト書きを読み上げ、サミュエル・L・ジャクソン、ティム・ロス、カート・ラッセルら豪華俳優がそれぞれの台詞を朗読した。観客はタランティーノが仕掛けた密室ミステリーに驚き魅了され、最後のオチが鮮やかに決まると、熱狂的なスタンディング・オベーションを送った。あまりに好評だったために、タランティーノはその場で映画として永遠に残すことを決める。ジャクソンも、「共演者たちと互いに顔を見合わせて、『これを映画化しないなんてあり得ない』と思ったね」と振り返る。

prodaction notes

美術:クレイジーなほど
細部まで作り込まれたセットと衣装

「ミニーの紳士洋品店」のセットは、壮観な山脈が背景に広がるウィルソン・メサのシュミット牧場とLAのスタジオに建てられた。『キル・ビルVol.1』で巨大な激闘空間、“House of Blue Leaves”をつくりあげた種田陽平が今回は魅力的な密室空間をデザインしている。「ミニーの店には何でもある。ドラッグストアであり、バーであり、レストランでもある。ただ紳士洋品だけがないんだ(笑)。とにかく、ほとんどの事件が起こるミニーの店を70mmフィルム撮影に耐えうるクオリティで構築する必要があった」と種田は説明する。様々なアクションや人間ドラマに合致した空間が複雑に組み合わされ、細部まで作りこまれている。インテリア、奇妙な瓶、ライフルのカートリッジ、食材やスパイスなどのディティールも観客を飽きさせない。思わず引き込まれるような世界観になっているのだ。

music

音楽 :片想いから相思相愛へ─
映画ファン待望のタッグの実現

エンニオ・モリコーネを敬愛するタランティーノは、『キル・ビル』、『キル・ビル Vol.2』、『デス・プルーフ in グラインドハウス』で彼の楽曲を使っている。『イングロリアス・バスターズ』では、映画全体の音楽を依頼したがスケジュールの都合で叶わず、『復讐のガンマン』や『非情の標的』の楽曲を使用した。また、『ジャンゴ 繋がれざる者』でも、過去の楽曲や当時の新曲を採用している。ところが、ある時、モリコーネとタランティーノの不仲説が流れてしまう。2013年にモリコーネが、ローマで映画学校の学生に質問された時に、「統一性に欠ける使い方だ」と答えたと報道されたのだ。しかし、モリコーネが直後に、「タランティーノ監督には敬意を抱いている。私の楽曲を採用してくれてうれしい」とコメントしたことから、報道は誤解だとの説も出る。今回、遂にモリコーネが音楽を担当、映画ファン待望のタッグが正式に成立したことで、両者の互いへのリスペクトが本当だったことが証明された。

ヘイトフル・エイト