2015.12.25 POSTED

映画化決定にあたり、是枝監督、阿部寛さん、 真木よう子さん、樹木希林さんからコメントを頂きました。

是枝裕和監督コメント

『海よりもまだ深く』の脚本の最初の1ページ目に書いたのは「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」という1行でした。この映画に登場する、 阿部寛さん演じる息子も、樹木希林さん演じる母親も、真木よう子さん演じる別れた元嫁も、みな「こんなはずじゃなかった」という思いを抱きながら、 夢見た未来とは違ってしまった今を生きています。そして、映画の主な舞台になる公団住宅も、建設された当時は思いもしなかったであろう、老人ばかりの現在を生きています。
今回の映画は、そんなどうしようもない現実を抱えながらも、夢を諦めることも出来ず、だからこそ幸せを手に出来ないでいる、そんな等身大の人々の今に寄り添ったお話です。
なんというか、僕が死んだ後に、神様か閻魔様の前に連れて行かれて、お前は下界で何をしたんだ、と問われたら、真っ先にこの『海よりもまだ深く』を観せると思います。
集大成とか、代表作といった言葉がふさわしいわけではないのですが、自分の今を一番色濃く反映出来た作品であることは間違いないです。

良多役 阿部寛さんコメント

今回演じた良多という役は、ある種とてもダメな男。夢を追い続けているけれど、うまくいかず、嫁や子供から見放されてしまった男。こういう役を演じるのは初めてなので、新鮮で楽しい経験でした。〝いつまでも夢を追いかけている人間″の甘えを演じることで、今までにない、面白い人間味を出せたのではないかと思います。
実際、僕も10代の頃などは、夢に打ち破れ、それでも何とかやっていくような毎日の連続でした。今回は是枝監督のオリジナル脚本ですが、そういうリアルさも、とても深く描かれている脚本です。

是枝監督の現場は初めてではありませんが、監督は僕らの演技をしっかりと見ていてくださるので、すごく安心感があります。監督の判断にゆだねれば絶対大丈夫だという安心感。作品を最良のものにするための監督の精神は、本当に尊敬しています。
今回は、監督が実際に住んでいらっしゃった団地で撮影をしたので、それは今までにない体験でした。監督の小さい頃を知っている方もいらっしゃったので、皆さんすごく温かく盛り上げてくださって。盛り上がりすぎて、撮影できるのかな、っていうくらい(笑)。なんだか、僕まで誇らしい気持ちでした。「帰ってきました!」って。
樹木希林さんとの共演に関しては、親子を演じるにあたり、最高の環境を頂いたと思っています。演技の合間に作品のことだけではなく、色々なお話をしてくださって、そういう時間を一緒に過ごすうちに、自然と親子の空気が生まれていきました。樹木さんは、もともとそれを考えて下さったのかな、とも思います。あと、樹木さんだからこそ言えるセリフと言うのがあり、本当に面白いんです。是枝監督が樹木さんにしか言えないセリフを書き、それを「バチーン!!」と演じられる樹木さんがいる。そういう場面が見られる現場は、本当に貴重な経験でした。
僕はなぜか強い妻がいる役柄を頂くことが多いのですが、今回、元妻役を演じられた真木よう子さんは、今までにないタイプの強くてドライな女性像を演じてくださったので、僕も今までの役との変化を出せてとても充実していました。男っていうのは、「奥さんが強くてね」と言っているくらいの方が人間味があって魅力的なんですよね。
今回僕が演じてた、強がっているのに非常に弱い、そんなダメだけど愛おしい良多を、皆さんに見て頂けたら嬉しいです。

元嫁・響子役 真木よう子さんコメント

是枝組には、不思議な安心感や居心地の良さがあるので、今回も自然でいられる現場でした。監督の脚本は、演じていくとどんどん良さが分かってくるので、樹木さんの一言や、阿部さんの一言などからも発見が多く、とても充実していました。 私が今回演じた響子は、将来を見ている女性です。子供や自分の将来を見据え、それを行動に移せるしっかり者。だから、阿部さんが演じた良多のような、夢見がちな男性が寄ってきてしまうし、反対にそういう男性を好きになってしまうのではないかと思います。阿部さんは色々な作品で拝見していますが、ここまで‘ダメ男’の役は初めてな気がします。でも、すごくハマっていらっしゃいました(笑)。役を演じ分けられる能力がとても高くて素晴らしい俳優さんだなと思いました。 樹木さんとの共演は、なかなかご一緒できる機会もないので、現場で盗めるだけ盗んでやろうと思っていました(笑)。一言一句台本に忠実に演じていらっしゃるのに、樹木さんらしさがキャラクターに滲み出ているのがとても印象的で、改めて尊敬する女優さんだなと感じました。

母・淑子役 樹木希林さんコメント

背が高すぎて苦労した時代が長かった阿部さん、ローマ風呂だけじゃない居場所を見つけたのね。
あの時代は憧れだった団地、70過ぎた婆さんにとってエレベーターのない団地の撮影はヨッコラショ。
『僕は9才から28才までそこに生活してたんですよ!』
撮影中、子供時代を知ってる方々にすれちがう、我が団地の出世頭『コレエダ!』
わたしは忘れものしても、とりに戻らない。
さてこの映画、まあまあなのか上出来なのか、蓋をあけてみるのが楽しみ。