ベニー・チャン監督の集大成に欠かせなかった二人のスター

ドニー・イェンは、「ベニー(・チャン)とはTVシリーズの『クンフー・マスター 洪煕官(ハン・カーロ)』と『精武門』で初めてタッグを組んだけれど、その後は長い間、一緒に仕事をしていなかった」と振り返る。だが、その間も映画を作ることについてよく話し合っていたという。「『追龍』を観たベニーが、僕の演技をとても気に入ってくれて、『どうしても一緒に仕事をしたい』と言ってくれた。いよいよだなと思ったよ。本作は、ベニーと僕が長年に渡って経験したことの集大成だ。これまでのアクション映画に対する彼のヴィジョンが現れているからね」
ベニーとさらに深い繋がりを分かち合っていたのが、ニコラス・ツェーだ。ベニーと過ごした時間についての話は尽きないと、ニコラスは語る。「初めてベニーと仕事をしたのは、19歳の時に出演した『ジェネックス・コップ』だ。当時、僕はまだ若かったから、撮影現場ではいつも馬鹿騒ぎをしていた。締め括りのアクションシーンでは、たくさんの火炎瓶を扱うので、ベニーから『集中しろ』と厳しく言われたね。後になってわかったのは、映画の現場では本当に簡単に事故が起きてしまうということだ。僕が成長するためには、あの経験は必要不可欠だった」
その後、ニコラスは『香港国際警察/NEW POLICE STORY』で、再びベニーと組んだ。「彼は僕が何も恐れていないことに気付き、僕の限界を試すために、香港コンベンションセンターの屋根から転がり落ちたり、41階から落ちたりするスタントをやらせた。その後も、バスに轢かれる『インビジブル・ターゲット』や『新少林寺/SHAOLIN』、『プロジェクトBB』に出演した。そして、ついに今回に至ったんだ」
ニコラスは本作のような香港のアクション映画に参加することが夢だったと語る。「多くの人から、なぜ映画に出演しないで、グルメ番組ばかりやっているのかと聞かれていた。映画を作りたくないわけではなく、どうしても飛びこんでいきたくなる香港のアクション映画を、広い方面からずっと探していた。ベニーから連絡をもらい、その機会がついに訪れたと思った。彼からキャスティングされるたびに、彼とぶつかり合い、それまでになかった普通じゃない難しいアクションシーンを作り、新たなキャラクターに大胆に挑戦しなければならない映画に必要とされていると感じる。ベニーのように命がけで映画を作る監督は、もうあまりいない。やっと、そんなプロジェクトに関われた。だから、僕のように皆にもこの作品を大切にしてもらいたい。ベニー・チャンとニコラス・ツェーの命がけのアクション映画は、もう作ることが出来ないからね。香港はベニー・チャンを永遠に失ってしまった」