UNDER THE SILVER LAKE アンダー・ザ・シルバーレイク

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長編デビュー時から実は濃厚だったデヴィッド・ロバート・ミッチェルのポップでビザールでニューロティックなノワール趣味が、今回はノン・ブレーキで全開に……結果、カルト化必至の大怪作が爆誕!(褒めてます)
とりあえず、こんな風にヒッチコック・オマージュする人、初めて見たわ。

ライムスター宇多丸

(ラッパー/ラジオパーソナリティ)
悪夢だけど目覚めてほしくない。
まるで枯れ始めた青春を追うように。
ミッチェル監督作3本の中である意味
一番怖くて切なかった。

川上洋平

([ALEXANDROS]/ミュージシャン)
本当に最高!!スクリーンに映し出されるアンドリュー・ガーフィールドに痺れまくった!
そして、監督のセンスの素晴らしさに痙攣しまくり!たまらない映画だった。

竹中直人

(俳優・映画監督)
順不同・敬称略

STORY & INTRODUCTION

全世界に未体験の恐怖を突き付け、大ヒットを記録した『イット・フォローズ』の
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が放つネオノワール・サスペンス!

映画の常識を破壊してきたクエンティン・タランティーノに、「こんなホラーは観たことがない」と言わしめた『イット・フォローズ』に、日本でも中毒者が続出したデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督。今度は、セレブやアーティストたちが暮らすL.A.の<シルバーレイク>を舞台に、消えた美女を探すうちに、街の裏側に潜む陰謀を解明することになるオタク青年の暴走と迷走を描く。
主人公のサムには、『ハクソー・リッジ』でアカデミー賞®にノミネートされた、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。彼が行方を追うサラには、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』のライリー・キーオ。
デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を頂点とする、妖しいL.A.奇譚の系譜を引き継ぎながら、幻想的な映像と天才的に斬新なアイディアで、“私たちは誰かに操られているのではないか”という現代人の恐れと好奇心に迫る、ネオノワール・サスペンスが誕生した。

恋におちた美女が突然の失踪。彼女の捜索を始めたオタク青年サムは、
夢と光が溢れる街L.A.<シルバーレイク>の闇に近づいていくのだが――

“大物”になる夢を抱いて、L.A.の<シルバーレイク>へ出てきたはずが、気がつけば職もなく、家賃まで滞納しているサム。ある日、向かいに越してきた美女サラにひと目惚れし、何とかデートの約束を取り付けるが、彼女は忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。折しも、大富豪や映画プロデューサーらの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没し、街を操る謎の裏組織の存在が噂されていた。暗号にサブリミナルメッセージ、都市伝説や陰謀論をこよなく愛するサムは、無敵のオタク知識を総動員して、シルバーレイクの下にうごめく闇へと迫るのだが――。

PRODUCTION NOTES

01

監督のある豪邸への
疑問から生まれた物語

本作の企画は、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督と、彼の妻の頭から離れなかったある疑問によって始まった。彼らが永住地として選んだ南カリフォルニアの地形をじっと眺めながら、「あのロサンゼルスの丘に建っている屋敷の中では、一体何が起きているのだろうか?」という疑問だ。ハードボイルド作家のレイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドから、映画界の巨匠であるビリー・ワイルダーやロマン・ポランスキー、デヴィッド・リンチまで、様々な人物がその問いに対する答えを提示してきたが、そのほとんどが謎めいた億万長者や年老いた銀幕女優、売込み中の若手女優、うねるヤシの木や豪邸を守る不吉なゲートの裏側で絡み合うモヤモヤとした陰謀などだった。
「これは、私独自のロサンゼルス物語だ。この物語を最も的確に表現するには、探偵ものがベストだと判断した」とミッチェルは語る。隣に住む美女が失踪したことから、“探偵”となる主人公のサムは、セカンド・ストリート・トンネルから星の見えるグリフィス天文台、さらにハリウッド・フォエバー墓地まで、ロサンゼルスのアイコンである数々のロケーションに潜む謎に迫る。『三つ数えろ』のフィリップ・マーロウ、『チャイナタウン』のジェイク・ギテス、『マルホランド・ドライブ』のベティ・エルムスのように、サムは南カリフォルニアの光と影を旅する探偵になりきり、巧妙に作り上げられたハリウッドの正体を暴き、深く根付いた堕落を、都市の核の部分から掘り起こそうとする。
02

オスカープロデューサーが
心を奪われた脚本

ミッチェルは書き上げた脚本を、『ムーンライト』のプロデューサーで、フロリダ州立大学の同級生のアデル・ロマンスキーに送った。「度肝を抜かれた。今まで読んだ台本の中で、最もワイルドかつクレイジーで面白かった。同時に、我々が住む世の中を鋭く描いていた」とロマンスキーは絶賛する。
さらに、『イット・フォローズ』のプロデューサーのクリス・ベンダーもこの脚本を気に入り、プロジェクトはスタートした。ベンダーは、「デヴィッドはまるで掃除機のような存在で、ポップ・カルチャーで起きていることすべてを吸い取ってしまう。彼の脚本には、80~90年代のポップ・カルチャーが反映されていることが多いが、今回はさらにその愛情と理解が深く反映されている。デヴィッドの脚本は、何度読み返しても足りない。深く潜るたびに、新しい魅力が見つかって、そこからさらに大きな可能性を発見する」と称える。
そしてベンダーは、『ソーシャル・ネットワーク』などで3度のアカデミー賞ノミネート歴のあるプロデューサーのマイケル・デ・ルカに脚本を渡した。デ・ルカは、「非常に野心に富んだ作品だと思った。いくつもの層によって成り立っている物語で、サブ・テキストの壮大な芸術作品と言える」と語る。さらに彼は、何が本当で何が嘘なのか、信じる対象を一方的に押し付けられる中で、集団として真実を突き止めようとする現代の傾向も捉えていると感じたという。
03

広告、映画、ヒット曲に隠された
秘密の暗号とメッセージの探求

本作の核にあるのは、広告や歌や映画の中に刻まれた秘密の暗号を通して発見する複雑な陰謀だ。これはビートルズの全盛期以来、ポップ・カルチャー愛好家がとりつかれている、実際に存在する現象だ。
プロデューサーのジェイク・ワイナーは、「この物語は、私たちが毎日目にする物や商品の中に隠されているメッセージを探求する。あちこちにヒントや暗号が散りばめられている。想像できるものすべてを繋げ合わせていくことで、さらに新たな層が生まれる。一度見ただけではすべてを理解することはできないかもしれないが、再度見直すことで、ミッチェルが伝えようとしている、より大きな物語が理解できるようになると思う」と説明する。
この点についてミッチェルは、「本作には、沢山の要素が隠れていて、人が見つけてくれるのを待っている。言語的なものもあれば、テーマに関するものもある。これは、明確な答えを打ち出すような映画ではない。見た人たちが自分で考え、議論し、そしてできればもう一度見てもらえるように、意図的に作っている」と解説する。
04

ロサンゼルスを描いた巨匠たちへの
オマージュ

『イット・フォローズ』に続いて撮影監督を務めたマイケル・ジオラキスは本作の映像について、「映画の巨匠へのオマージュを加えた、エネルギーに満ちた悪夢のような映像だ。観客はサムの視点から映画を体験することになるので、サムの感情を画像に取り入れることで、馴染みがあると同時にどこかユニークで謎めいたロサンゼルスを映し出そうとした。また、全体的に影やコントラストを用いた独自のスタイルを確立させた。さらに、『第三の男』、『愛よりもはやく撃て』、『三つ数えろ』、『アフター・アワーズ』、『タクシードライバー』などの映画から引用しながら、型にはめつつも、明確な意図を以て、当時の感覚とはまた違うものを作り上げようとした」と説明する。
映画愛好家たちは、ヒッチコック、キューカー、デ・パルマ、ボーゼージなどの巨匠たちの作品の引用をすぐに感知するだろう。ミッチェルは、「私はとにかく映画が大好きだ。彼らの作品を引用したり、インスパイアされたりするのは、よいことだと思う。本作のほとんどの部分は、私の映画に対する執着心から生まれている。『裏窓』や『めまい』への私の愛は、間違いなくこの映画の中に反映されている。その他、『欲望』や『ボディ・ダブル』、『キッスで殺せ!』や『マルホランド・ドライブ』などのロサンゼルスを舞台にしたフィルム・ノワールへの愛も含まれている」と解説する。
デ・ルカは、「本作を見ると、ロバート・アルトマンやポール・トーマス・アンダーソンなど、ロサンゼルスを舞台に映画を作ったあらゆる監督が思い浮かぶ。ロサンゼルスがいかに奇妙で美しくて恐ろしい街かを描きたいという昔からの伝統があり、ミッチェルもその伝統に加わったわけだ」と付け加える。
05

謎の多い二人のキャラクターの
キャスティング

好奇心旺盛で、行動や目的が不可解なサムというキャラクターを上手く表現するには、ハリウッドで奮闘する典型的な人物に深みを与えられるような役者が必要だと判断され、アンドリュー・ガーフィールドにオファーされた。ミッチェルはサムのキャスティングについて、「サムはいくつもの複雑な層でできていて、すぐに理解できるような人物ではない。観客を奇妙で暗くて謎に満ちた場所へ案内しつつ、サムとして存在してもらう必要があった。アンドリューはこの役にピッタリだった。彼の人を惹きつける力が、キャラクターの暗い側面と絶妙なバランスを保っていた」と語る。
ガーフィールドはサムのことを、「彼は生きる目的、この世に存在する意味を見出そうとしている。多くの現代人のように、ゾンビのようには生きたくないと感じている。群を成す羊のようには生きたくないってね。同時に、常に自分の無力さに失望もしている。これは、人生の意味を探す旅に繰り出し、表面的な世の中に抵抗しようとする、ある男の物語だ」と解説する。
行方不明になるサラを演じるのは、エルヴィス・プレスリーの孫で、ロサンゼルスで生まれ育ったライリー・キーオだ。ショービジネス一家に生まれた彼女の血筋によって、サラというミステリアスで魅力的なキャラクターに新たな次元が加わった。ミッチェルは彼女を、「他の映画で見る彼女とは違った。脆さと愛情に満ちた強さのようなものが入り交ざって見応えがあった」と称える。
06

クレイジーなまでにこだわった
美術と装飾

ミッチェルの作品は、アート・ディレクションやプロダクション・デザインが印象的だが、本作では革新的な作り物として、同人誌が登場する。アーティストでありイラストレーターのマイロ・ニューマンが、サムがロサンゼルス中を旅するシーンのイラストを提供した。締め切りまで2週間しかなかったため、ニューマンはミッチェルの「ラフだが、真実味のあるもの」という指示に従った。
ニューマンは、「イラストの細部がプロットに非常に影響するようになっていった。いくつかのサンプルをデヴィッドに見せた後は、私の好きなようにさせてくれた。デヴィッドが作り上げる世界は、パラノイア、暴力、皮肉といったものだ。たまに、辛うじて病的なユーモアで明るくなる場面もある。私はできるだけこの同人誌の中に飛び込もうと試みた。もし、ヴィジュアルのギャグによって誰かが嫌悪感を抱いたり、笑ったりしたとしたら、私は正しかったと言えるだろう」と説明する。
「私はいつだって限界までこだわるが、今回は本当にクレイジーだったね」とミッチェルも認める。例えばそのこだわりの一つとして、サラの『百万長者と結婚する方法』のフィギュアがある。脚本にサラがその映画に夢中だと書かれているのを読んだプロダクション・デザイナーのマイケル・ペリーは、関連グッズを探し回り、遂にパリで見つけたのだ。
本作の最も重要なロケーションであるサムのアパートは、サン・フェルナンド・バレーのベンチュラ・ブルバードの丘の上にあった建物を借りて、ペリーが内部を改装して撮影した。
07

名作曲家からビデオゲームまで
取り入れた独自の音楽

人気バンドの“イエスとドラキュラの花嫁たち”の音楽はオリジナルで、Disasterpeaceの名で知られるリッチ・ヴリーランドが作曲を担当し、ミッチェルも作詞で参加した。なかでも非常にキャッチーで一回聞けば耳から離れない「回る歯」という曲は、劇中で何度も流れる。歌詞の中には秘密が隠されていて、サムがターンテーブルで逆再生するたびに、陰謀の奥深い部分が露わになっていく。
映画音楽もヴリーランドが手掛けているが、『市民ケーン』のバーナード・ハーマンの楽曲にインスピレーションを受けたという。ハーマンの作曲のセンスは、ノワール映画というジャンルのトーンを決定づけた。しかし、複雑に入り組んだ物語を語るには、それ以上の要素が必要だった。ヴリーランドは、尺八や蒸気オルガン向けに作曲された楽曲や、ビデオゲームの「ゼルダの伝説」のサントラなどを参考にした。さらに、バスルームの中で録音したホイッスルなども使用して、今回の独特なスコアが完成した。

COLUMN

シルバーレイク、銀の湖。それはロサンジェルスの東北部、ハリウッドの東にある貯水池の名前で、その周辺の住宅地もそう呼ばれる。1910年代から30年代にかけて、そこにはキーストンという映画会社があり、サイレントの喜劇映画を量産していた。
その後は、ハリウッドに近いうえに家賃が安いため、映画や音楽で成功を目指す青年や芸術家たちが集まった。たとえば70年代には、まだ貧乏だったジョエル&イーサン・コーエン兄弟と、後にジョエルと結婚するフランシス・マクドーマンド、それにキャシー・ベイツが家をシェアして暮らしていた。
筆者は2000年代前半、ロサンジェルスに行くと、シルバーレイクに住む瑪瑙ルンナさんという友人の家によく泊めてもらった。ルンナさんはスタイリストで服飾アーティスト。さらに「セックス・ロバ」というインディーズのバンドでボーカルもしていた。
ルンナさんの夫トッシュ・バーマンさんはサンセットストリップの書店「ブックスープ」のマネージャーだった。ジョニー・デップが経営していたライブ・ハウス「ヴァイパー・ルーム」の並びにあり、映画人がよく訪れる。TVドラマ『LAW and ORDER 性犯罪特捜班』の主演スター、マリスカ・ハージティも、駆け出しの頃、「ブックスープ」でバイトしていた。
書店に限らず、ロサンジェルスでは、レストランでもカフェでも洋服屋でも、店員の多くが俳優の卵で、オーディションを受けまくっている。夢工場ハリウッドの一員になる夢を見て、世界中から集まってきた夢追い人たち。そんな彼らが肩寄せ合って暮らす街がシルバーレイクだった。
だが、2000年代半ばからシルバーレイクは変わった。オシャレな街として人気が出て、ジェームズ・フランコやジョセフ・ゴードン・レヴィットなどのセレブも住人になり、家賃が高騰し、かつてのような貧乏な若者たちは住めなくなっていった。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』の監督、デヴィッド・ロバート・ミッチェルは10年ほど前からロサンジェルスに住み、シルバーレイクの変容を見てきたという。
ミッチェル監督(1974年生まれ)はホラー映画『イット・フォローズ』(16年)で世界的に注目された。製作費わずか200万ドルの低予算で、全米で1400万ドル以上を稼ぎ出したサプライズ・ヒットだった。セックスを体験した若者をイット(それ)と呼ばれる幽霊のようなものが追い続ける。監督によれば、イットとは、老いること、死ぬことの恐怖の象徴だという。それを遠ざけるには、愛する人を見つけるしかない。
ホラー映画らしくない、哲学的でロマンチックなテーマ、マイク・ニコルズの『卒業』(67年)やドストエフスキーの「白痴」の引用、そして美しい撮影。『イット・フォローズ』は作品として高く評価された。
そのミッチェル監督の新作が『アンダー・ザ・シルバーレイク』。今回はハリウッドを舞台にしたミステリーだが、ミッチェルらしく、全編にポップ・カルチャーへの愛と憎しみが満ち溢れた奇妙な映画だ。
主人公サム(アンドリュー・ガーフィールド)はシルバーレイクのアパートに住む三十代。映画か音楽か、何かに夢を抱いてこの街に来たらしいが、夢には届かなかったらしい。仕事もなく、家賃を滞納してアパートを追い出される寸前だ。
サムは往年のハリウッド映画ファンだ。アパートの居間にはヒッチコックの『裏窓』や『サイコ』、『大アマゾンの半魚人』のポスターが飾られている。寝室にはギブソンのレスポール・ギターとアンプ、ニルヴァーナのカート・コバーンのポスターがあるのを見ると、ロック・ファンでもある。
サムが双眼鏡でアパートの中庭を覗く。『裏窓』(54年)のジェームズ・スチュワートのように。そして謎の美女サラと出会い、彼女の部屋でマリリン・モンロー主演の『百万長者と結婚する方法』(53年)を観る。翌朝、サラは消えていた。サムはサラが忘れられない。ヒッチコックの『めまい』(58年)でキム・ノヴァクに魅せられたジェームズ・スチュワートのように。不穏で甘いオーケストラも、『めまい』のバーナード・ハーマンの音楽そのものだ。
サラを探してサムはハリウッドを駆け巡る。あちこちのパーティに潜り込み、奇妙なハリウッド人種たちと次々に出会う。ロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(73年)のフィリップ・マーロウのように。
サムは、墓地で行われた試写会に行く。映画人の墓が多い「ハリウッド・フォーエヴァー霊園」だ。ヒッチコックの墓石もあるが、遺灰は海に撒かれたので、その下には何もない。
霊園の地下にはクラブがあって、テーブルは墓石。サムのテーブルはピンクのハート型。それは女優ジェーン・マンスフィールドの墓石。マンスフィールドはマリリン・モンロー人気にあやかって登場したグラマー女優で、マリスカ・ハージティの御母堂。1967年に交通事故で亡くなった。34歳だった。サムはそこで、女優ジャネット・ゲイナーの墓石も見る。彼の母が好きな映画『第七天国』(27年)の主演女優。彼女も交通事故死した。
サムは華やかな映画界の裏から漂う死の匂いに引き寄せられていく。サムの夢の中で、サラがプールで全裸で泳ぐ姿は、マリリン・モンローの遺作『女房は生きていた』(62年)を模倣している。事故で死んだと思われたヒロインが実は生きていたというコメディだが、完成しなかった。モンローが謎の死を遂げたから。
サムはサラを探すうちに、音楽や映画には秘密のメッセージが隠されているという陰謀論にのめりこんでいく。その心理は、トファー・グレイス扮する友人が語るパラノイアそのものだ。ハリウッドにやってきても、成功できる人はほんの一握り。夢の王国に入る扉は、それを開ける鍵はどこにある?それは「ゼルダの伝説」のように、この街のどこかに隠されているんじゃないか?
『アンダー・ザ・シルバーレイク』は『ラ・ラ・ランド』(16年)の裏返しのような映画だ。どちらもグリフィス天文台でロケしている。あちらは天にも昇るラブ・シーン、こちらは地下深くのトンネルに下りていく。『ラ・ラ・ランド』で女優を目指すヒロインはオーディションで「狂気こそが鍵なの」と歌う。ハリウッドの扉を開ける鍵は、夢見る狂気なのだと。
サムが「作曲者」の家に近づくシーンは夢のようだ。まるで『オズの魔法使い』(39年)のエメラルドシティ。オズの魔法使いが魔法の正体をバラしてしまったように、「作曲家」も、サムが信じてきた映画やロックの魔法を解いてしまう。
テレビ画面に『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)のクライマックスが映っている。主人公は道路の真ん中で、いつの間にか異星からの侵略者に人々が乗っ取られているんだと訴えるが、周囲からは狂人としか思われない。サムが何を言っても信じてもらえないだろう。
シルバーレイクの底には、ハリウッドで砕けた夢の残骸が沈んでいるのだ。