PRODUCTION NOTESプロダクションノート
キャスティング
小説を映像化するにあたり、“老い”をどの程度表現するか、監督らは慎重に協議を重ねたと言う。「マドレーヌという役を描くにあたり、末期癌で苦しんでいる人と、肘掛け椅子に座ってテレビを見る余裕がある人との、ちょうど中間くらいの演出が必要だった。マドレーヌは死の病に侵されているわけではないけれど、倦怠を病気のように見せることが重要だったから。耐えられないほどの疲労感を抱えていることを感じさせたかった」
マドレーヌを演じたマルト・ヴィラロンガは、フランスでは喜劇役者として有名だが、感動的な役も、真面目な役も、控えめな役もこなせる人気女優。彼女の撮影時の実年齢は82歳で役柄より10歳若いが、信じられないほどのバイタリティーで本作に挑んでいたと監督は振り返る。「彼女は私たちよりも元気なの。だから撮影中に“もっと力を抑えて!”って何度もお願いしたわ!」
マルトは語る「パスカルが私を起用してくれて感動した。これまで喜劇的で大衆的な役柄を演じることが多かったですからね。脚本を読んだ瞬間に“これは私のための役。他の人に譲りたくない”と思った。マドレーヌはすばらしい人物で、“最期の教え”は素晴らしい物語だし、作品の中心には私の心に訴える現実的なテーマがあったのだから」
また娘役のディアーヌを演じたサンドリーヌ・ボネールに関して、監督はこう語る。「サンドリーヌは動物的な本能で演じる女優で、最初のテイクで全力を出すタイプ。彼女とマルトは、アンドレ・テシネ監督の『Les innocents』の1シーンで共演経験があり、再会を喜んでいた。どちらも情が深いタイプだから、仕事の取り組み方は大きく違っても、すぐに打ち解けて仲良くなっていたわね」
サンドリーヌは言う。「クロード・ルルーシュ監督の『Salaud, on t’aime.』の撮影中に、アントワーヌ・デュレリ(本作のピエール役)からこの企画を聞いて面白いテーマだと思っていたので、パスカルから申し出があった時は、やると即答したわ。自分の死の選択というのは難しい問題だけれど、映画のように、人生の終末期にあって、それを完全に自覚している人が自ら選択する時は、受け入れられる決断だと私は思います」