スペシャルトーク

原作:伊坂幸太郎×音楽:斉藤和義

出会いから13年ー短編小説に始まり、ひとつの楽曲が生まれ、連作小説集が完成し、映画化へ。
映画『アイネクライネナハトムジーク』は、ベストセラー作家・伊坂幸太郎とシンガーソングライター・斉藤和義という、全く異なるジャンルで活躍する二人の奇跡の交流から生まれた。

短編小説から動き出し、成長する登場人物たち

映画化の話を聞いたとき、本当に感慨深かったです。この小説は、斉藤さんからの依頼がなかったら書いていない作品だと思うので。

伊坂さんがファンだと言ってくれていると聞いて、「紅盤」というアルバムで作詞をお願いしてみたら、歌詞は書いたことがないけど、小説ならって、短編小説を書いてくれたのが始まりだったよね。しかも、あまりやらないって言ってた恋愛もので。

さすがに、小説を書かれても困る、と言われると思っていたのに、それでもいいですってことだったので(笑)。斉藤さんとお仕事するために、頑張って書きました。でも、小説をどうするんだろうって疑問で。

俺も小説書いてくれるのは有難いけど、どうするんだろうって(笑)。でも、そこから作ってみようと思って。

「ベリーベリーストロング※1」ってタイトルで曲が送られてきた時は、感動しました。ギャグっぽく1行書いたセリフがタイトルになるとは思わなかったです(笑)。さらに、この曲に応える形でまた「ライトヘビー」という短編を書くことになって。“斉藤さん”※2という人物を登場させて。僕にとっても、とても特殊な作り方をした小説になりました。

そんな短編から、さらに伊坂さんが話を進めていって。勿論、小説は空想の世界なんだけど、自分の中では実際に登場人物たちが動き出して成長していく不思議な感覚があって。だから、今回映画の主題歌も、彼らの10年後のイメージで作ってみました。

「小さな夜」ですね。聞いたときには、今回はこう来たか!と思いました。作品にぴったりの雰囲気で、可愛らしさもある斉藤さんらしい曲で良かったです。劇中音楽でも、原作読者や斉藤さんファンには嬉しいあの曲のフレーズが登場しますよね。あれは、斉藤さんのアイデアだと聞きました。

気づく人だけニヤッとできるシーンになるといいなと思って。

他の劇中音楽も、斉藤さんぽいというか、独特で面白いところもあって。

色々実験したり、遊ばせてもらったところもあったけど、音楽がなくてもすでに成立している作品だと思ったので、なるべくやりすぎないようにしたいなと。監督の今泉さんも明確なイメージをもっていたので、それにプラスして、俺がこの辺にこんなのはどうかなと作っていきました。

※1 正式な楽曲名は、「ベリー ベリー ストロング~アイネクライネ~」。

※2 小説の中では、1回100円でその人の心情に合わせた曲の一部をPCで再生してくれる露店商。小説内で斉藤和義の楽曲の歌詞が使用されている。

二人でしかできない本当の”コラボレーション“がやりたかった

僕にとって斉藤さんはとても大きな存在で、今まで書いている小説も明らかに影響を受けているんですよね。

伊坂さんの小説を読むと、ロックだなとか、激しすぎず、聴きやすいパンクを感じたりするけど・・・。

それは何か、斉藤和義さんの音楽に近いというか、そのままなんです(笑)。

作詞のお願いをした時からそうだったけど、伊坂さんと一緒にやるなら、“二人でしかできないもの”にしたいというのをすごく意識していました。

僕も斉藤さんとやらせていただく意味にこだわりました。「コラボレーション」って言って、“二人でやったこと”だけが売りになっちゃって、中身はそれほどで、やっている側の自己満足に終わるのだけは避けたくて。ちゃんと読んで面白いものにしなきゃと意識しながら書きました。

当時、“コラボ”って言葉も流行りだした時期だったしね。

僕たちのコラボは、結構良いものになりましたよね?!

ね!(笑)。

魅力あふれるキャストと劇的じゃないのに引き込まれる物語

映画を観て、キャストの皆さんの演技が本当に素晴らしくて、佐藤役の三浦さんなんて、魅力が爆発していました!

一番ニンマリしたのは、紗季の手に「シャンプー」と書いてあるシーン。多部さんがとても良かったです。

あれ、もともとは、僕がいつも行っているスタバのお姉さんが本当に「シャンプー」と書いてたんですよね。それをそのまま(笑)。佐藤の親友役の矢本さんも、個性的で難しい役だったと思いますが、とても魅力的に演じてくれていました。

その奥さん役の森絵梨佳さんや、娘役の恒松祐里さんもすごく良かった。

佐藤の上司を演じた原田さん、美容師役の貫地谷さんや高校生の萩原さん、ボクサー役の成田さんも、ひとりひとりが自然体で素敵なんですよね。

“斉藤さん”も佇まいが良かった。この作品、物語としては何か劇的なことが起こるわけではないんだけど、あの人とこの人はこう繋がって…、日常の色々なことが脈々と連なって、「あ、全体としてそういう風になっていくんだ!」という感じが、とても俺には面白かったですね。

「未来はバラ色だー!」みたいな作品よりも、「うまくもいかないけど、この位でいいよね」という程々なのが好きなんです。今泉監督も、超ハッピーエンドな作風でもないし、逆にそういうのを疑っている雰囲気もあると思うので。

これまでの伊坂さんの作品と違って、今回は特別隕石が降ってくるとか、怪獣が登場するとかじゃないけど、物語に引き込まれちゃうよね。映画でこの作品の良さがちゃんと伝わるのかなと思ってたけど、完成したものを観たら全く心配なかった。

僕は自分の小説の映画化は恥ずかしくて、あまり客観的に観られないんですけど、さらに今回は地元仙台の知っている場所ばかり出てきちゃって。でも、とても可愛い映画になっていて、最後はとても心地良い気持ちで観終わることができました。役者さんも皆さん生き生きしていてとても良かったです。ぜひ、原作ファンの方々にも楽しんでもらいたいです。