プロデューサーのジェレミー・トーマスと中沢敏明は、2010年にタッグを組んで製作した『十三人の刺客』のような、日本はもちろん海外でも評価される“侍映画”をまた作りたいと考えていた。
そんななか、“侍がマラソンをする”という史実を元にしたキャッチーな設定の小説が、中沢の目に留まる。土橋章宏の「幕末まらそん侍」だ。トーマスに話したところ、すぐに「それは面白い」と盛り上がり、映画化のプロジェクトがスタートした。
最初に徹底的に話し合われたのは、作品の根幹となる“トーン”をどうするかということだった。そのなかで、海外の監督を起用するというアイデアが出された。トーマスは、たとえば『ラストエンペラー』では、中国を舞台にした皇帝の物語をベルナルド・ベルトルッチというイタリア人監督に撮らせたり、大島渚監督でインドネシアを舞台にした、日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの合作映画『戦場のメリークリスマス』を作ったりなど、異文化をミックスすることで化学変化を起こして、新たな作品を生み出してきた。中沢も異質な才能をぶつけ合わせることに積極的な上に、海外での展開を視野に入れた時に、海の向こうの観客が楽しめるテンポの速い作品を作るためには、最も適した選択だと考えた。
日本の時代劇を撮らせたら面白いと思う監督として、トーマスから名前が挙げられたのが、バーナード・ローズだ。監督としての才覚だけでなく、異国の地で言葉の通じない人々の中に一人で飛び込んで映画を撮るという“冒険”を、楽しみながら成し遂げるというパーソナリティが必要だ。これまでにロシアやドイツでも撮影しているバーナードは、まさにうってつけの監督だった。