キャスティングに関しては、演技に“伝える力”のある俳優にオファーすることが必須条件とされた。日本語が理解できない海外の監督が演出することで、自然と、台詞に頼らない芝居、アクション、映像で物語る作品となり、海外の観客にも日本語の微妙なニュアンスがわからずともストレートに届く作品となる。そんな台詞に頼らない演技力に加えて、主人公の甚内を演じる俳優には、大きな規模の公開となるために観客を惹きつけるスター性も必要だった。その上、“忍び”という隠密の役柄のため、秘めた思いを表現でき、身体能力も求められる。すべてを兼ね備えている俳優と考えた時、自然に名前があがったのが佐藤健だ。
雪姫は、男装した姿がちゃんと男に見えるという説得力がなければならないし、藩主である父親に反抗するという強い自立心も表現できなくてはならない。その上で美しい姫と考えた結果が、小松菜奈だ。姫との結婚を願う辻村は、最初は傲慢で私利私欲で動いていたが、最後は藩のために藩士を率いて戦うという気持ちのふり幅の大きなキャラクターだ。馬に乗ったり、水に落ちたりと求められるアクションも多い。ダンスや舞台で鍛えた森山未來が選ばれた。
足軽の上杉はストイックな男で、八百長を持ちかけられて金をもらった方がいいのか、名誉を守るべきか、家族のためにはどうするのが一番かを、誰にも相談せずに一人で思い悩む。台詞にはない葛藤を表現ができる役者と考えて、染谷将太。二つの顔を演じ分けなければならない植木は、高い演技力を誇る青木崇高に依頼された。
物語のトーンはシリアスに振られたが、原作のユーモアの香りは少し残しておきたい。それを担う又衛門には、シリアスとコミカルを行き来する人物を演じられる竹中直人。日本を代表している交渉役でもある大老の五百鬼は、重厚さと威厳のある佇まいを持ち、かつ底知れぬものを感じさせる人物ということで、豊川悦司。頑固で威圧的な藩主であり父親だったが、遠足の意外な結末に自身も変化していく勝明には、緻密かつダイナミックな演技で魅了する長谷川博己にオファーされた。