安中藩のロケ撮影は、すべて山形で行われた。ロケハンを行ったローズ監督が、山の中の苔の生えた古道や、神木となっている杉の木などを見て、この神秘的な日本の原風景の中を侍たちが様々なドラマを背負って駆けていくのは素晴らしいと、撮影へのモチベーションが一気に上がった場所だ。
ローズ監督の演出方法は独特だった。精魂込めて書き上げた脚本だが、その通りに一言一句、カット割りなどはしない。現場で起きている状況をうまく映画に取りこめば、机上では思いつかなかったプラスが生まれるという考え方だ。キャストとも、クランクインの前に時間をとって、役柄やシーンについて、ディスカッションをした上で、現場ではアドリブを奨励し、テストからいきなりカメラを回し、長回しで撮り続けるという、まさにアドベンチャーな撮影だった。
さらに、基本的に天気待ちはない。雨が降れば、たちまち雨のシーンに変える。天気の移り変わりの激しい山が舞台の物語であり、悪天候になるほどに、遠足は過酷となりドラマとして盛り上がる。カメラの前で起こる偶然やハプニングをすべて取り入れ、とにかく映画として豊かにするというスタンスだった。ローズ監督はクランクイン時にスタッフへ、「僕のやり方で皆さんを大混乱に陥れると思います。でも、僕の中では明確なヴィジョンがあるので、信じてついてきてください」と宣言していたが、確かに日本映画の現場にセンセーションを巻き起こした。