大学院時代のターは、東アマゾンにおける音楽民族学の研究として、ウカヤリ川流域に暮らすシピボ族を取り上げたという設定だ。その背景には、シャーマニズムの文化やアーティストにスポットライトを当てたいという制作陣の思いがあった。本作の冒頭で流れる音楽は、シャーマンであるエリサ・ヴァルガス・フェルナンデスによるイカロ(治療歌)だ。本作のサウンド・デザイナーであるスティーヴン・グリフィスは、ロンドン大学東洋アフリカ学院出身の若手音楽民族学者であり、自身の甥でもあるザキエル・ルイス=グリフィスを派遣し、ウカヤリ川でエリサが歌うイカロの録音をさせた。さらに、ダヴィッド・ディアス・ゴンザレスというシピボ族出身の写真家には、家族が儀式を行っている写真を撮影してもらった。その儀式には、後にターも参加することになる。
それ以外にも、フィールド監督の希望で、脚本に加えられたジャズ・スタンダードが2曲ある。1曲目は、フィールド監督が学生時代にバンドで演奏した曲でもある「Li’l Darlin’」。本作で使用されたのは、カウント・ベイシー・オーケストラのために、ニール・ヘフティが編曲したバージョンで、ターとシャロンの最初の掛け合いの場面で使用される。シャロンの動悸が激しくなり、「BPMを60に戻す」ためにターがかける曲だ。2曲目は、ジミー・ヴァン・ヒューゼン作曲、ジョニー・バーク作詞の「Here’s That Rainy Day」。この楽曲も、ターとシャロンが家で過ごす場面で使用されている。