撮影後に作り上げた
“ターのアルバム”

2022年7月、ケイト・ブランシェット、音楽のヒドゥル・グドナドッティル、オルガ役のソフィー・カウアー、フィールド監督の4人は、コンセプトアルバムのレコーディングを行うために、アビイロードスタジオに2週間通った。
アルバムのコンセプトは二つあった。一つはターの目標と深く関連している。アルバムカバーを見れば、ターがクラウディオ・アバドのアルバムカバーを取り入れるために、ドイツ・グラモフォンからの許可に漕ぎつけたという想像が膨らむだろう。二つ目は、映像と同様に、音楽の制作過程の騒々しさを音楽で表現することだった。
このアルバムには、ドイツ・グラモフォンで、マーラーの交響曲第5番のリハーサルを行うブランシェットと、ロンドン・コンテンポラリー管弦楽団の指揮者であるロバート・エイムスに指示を出すグドナドッティル、そして、ロンドン交響楽団で指揮を務めるナタリー・マーレイ・ビールの3人の監修による演奏が収録されている。未だかつてない試みということで、グドナドッティル曰く、「初めて」が詰まった大胆なアルバムになったという。
その「初めて」の一つが、ロンドン交響楽団を率いて、ソフィー・カウアーがプロとして初めて演奏するエルガーのチェロ協奏曲だ。ブランシェットは、「ソフィーにとっては夢のような体験だったと思う。1965年にデュ・プレが録音を行なったのと同じオーケストラと、同じスタジオで演奏することができたのだから」と回想する。
アルバムの最初を飾るのは、ターが作曲したという設定の曲をテーマにグドナドッティルが演奏した曲で、最後は1990年にターがアマゾンで録音した曲として、エリサ・ヴァルガス・フェルナンデスが歌うイカロだ。フィールド監督が、こう締めくくる。「作品の延長線上に、このアルバムを作れたのが本当にうれしい。実際にこの世界に存在しているということが、さらにうれしい」