思いがけない誕生秘話

 本作誕生のきっかけは、フランシス・リーの恋人の誕生日だった。彼は、化石や鉱物好きな彼氏へのプレゼントを探している中で、何度もメアリー・アニングという名前に出会うことに気づく。19世紀に気候の厳しいドーセット海岸で働いた労働者階級の女性、ほぼ教育など受けていないのに11歳という若さで一家の大黒柱になり、男性優位の階級社会の中で独学で古生物学を学んだ女性。自身が階級やジェンダーに強迫観念を抱くリーは、彼女に強く興味を惹かれる。
 しかしどれだけ資料を読み漁っても、同時代の人が彼女について書いた本は皆無に等しく、リーは独自の解釈でメアリー・アニングという女性を描こうと思い立つ。「僕は自伝を作りたかったわけじゃない。メアリーを尊重しつつ、想像に基づいて彼女を探求したかった。女であれ男であれ、メアリーが誰かと関係を持ったという証拠は一つも残っていないが、彼女に相応しい関係を描きたいと思っていた。」
 当時、女性は男性の従属的な立場にあったため、メアリーは社会的地位と性別のせいで歴史からかき消されてしまった。リーは言う。「だからこそ男性との関係を描く気になれなかった。彼女に相応しい、敬意のある、平等な関係を与えたかった。メアリーが同性と恋愛関係を持っていたかもしれないと示唆するのは、自然な流れのように感じられたんだ。そのうえで社会的にも地理的にも孤立し完全に心を閉ざしてきた女性が、人を愛し、愛されるために心を開き、無防備になることがどれだけ大変かを描きたかった。」
 『英国王のスピーチ』などアカデミー賞®に多くの作品を送り出してきた本作プロデューサーのイアン・カニングはリーの決断に対してこう語る。「メアリーの人生に、異性との恋愛関係があっただろうと考えるのと同じく、同性との恋愛関係があったかもしれないというアイディアに対し、自由でオープンであることが、私たちの時代の特徴だと思う。」