ボディダブルは一切無しでの撮影
撮影前に、チームはみっちり3か月間リハーサルを行い、役柄が日常的に行う仕事や、それぞれが持っている技能を追求した。フランシス・リーはスタントマンやボディダブル、ハンドダブルを使うことは好まず、役が物語の中で行うことはすべて、役者本人がやった(放尿のシーンすら!)。
生まれた時から映画の冒頭シーンまで、役がどういう道をたどってきたかを想像し、それぞれの感情や精神状態を深く掘り下げた。同時に身体面も追求するため、ケイトはライム・レジスの海岸で何週間も化石を探し、発掘作業を行った。一方、シアーシャは、ピアノを習い、美しい針編みレースの編み方を学んだ。
また撮影は物語の感情がうまく流れるように、時系列に沿って撮ることにした。そうすれば各シーンが、次のシーンの準備になる。物語を一つずつ積み重ねていくことで、強い感情の弧が、作品の軸として現れた。
撮影監督ステファーヌ・フォンテーヌのカメラは、見る側の視線から逃れられないようキャラクターに寄り添い、風景だけでなく感情をも映しだすとリーは語る。「この映画はすべてメアリーの目を通して物事を見て、彼女と共に体験していく。また、光を通してシャーロットがこの世界にもたらす変化や、暗く無感情な世界に、彼女独特の光が差し込むことで環境が転じていく様子も描写した。」
また監督とフォンテーヌにとって、物理的な環境も重要だった。メアリーは労働階級で、生活する環境は狭い。窓は少なく、暗くて、居心地の悪い閉ざされた空間だ。それに対し、シャーロットの住む世界は、光に満ちていて、物事から逃れるための空間が十分にある。つまり、シャーロットの生きる世界では、「選択」が許されるということだ。それぞれのキャラクターに異なる内的世界と外的世界があって、その対比を描くことが、「非常に面白かった」と監督は語っている。