土地、衣装、そして音楽が作り上げる世界観
監督は撮影前にライム・レジスの町を訪れた。「風景は私の感情を揺さぶり、絶え間なく引いては満ちる海には常に威嚇を感じる。死の感覚。メアリーはこの風景の中を歩く。ぬかるんでいて、汚く、寒くて危険だ。この風景がいかに人物を形づくるのか考える必要があったから、実際に化石採集もやってみたよ。四六時中、腰をかがめて地面を見つめる。あたりを見回して“何と美しい日だ!”とはならない。うつむいてばかりなんだ。この経験を通して、メアリーは顔を上げることのない人物だと私は考えた。地面に埋まるようにしている人物だと。」
また衣装も役柄を作り上げていくうえで重要なファクターとなった。衣装デザインのマイケル・オコナーとケイト・ウィンスレットは、今回、メアリーはコルセットを付けないということで同意した。身体を目いっぱい使う化石採集の仕事を、コルセットを付けながらできるわけがないという結論に至ったからだ。そこまで大きな発掘シーンの無いシアーシャですら、コルセットを付けたままでは、屈んで小石を拾うだけでも一苦労だった。また、シャツの下には男性のズボンを履くという設定になった。これで寒い気候にも耐えられる。ケイトは語る。「メアリーの衣装の機能性が好き。コルセットを付けずにあの時代の女性を演じたのは初めてだったから、嬉しかった!」
またサウンドデザイナーのジョニー・バーンと共に、リーは自然の音を使ってサウンドスケープを作成した。風は丁寧にデザインし、鳥のさえずりを適切な場所に加えた。火の音は心を落ち着かせ、背景には一貫して海の音が流れる。すべてが、この厳しい、残酷な世界を強調する音だった。質感を作りながら雰囲気を築き上げていくという手法だ。いわば海や波の音は、「コーラス」の役割を果たし、物語の根幹にある深い感情と対を成している。