主人公とカメラが同化し、やがて観客も一つになる撮影方法

ディヴァン監督が本作のアスペクト比を1.37:1にしたのは、カメラとアンヌを完全に同期させるためだ。ディヴァン監督は、「カメラはアンヌ自身になるべきで、アンヌを見ている存在であってはならない」と説明する。そのため、撮影監督のロラン・タニーとアナマリアと監督の3人で、何度もリハーサルを行った。カメラとアナマリアは、動きが一致する共通のリズムを見出すまで、繰り返し一緒に歩いた。
ディヴァン監督は、「アンヌが前進すればするほど、彼女の辿る道は霧がかったようにおぼろげになる。彼女は一般的な医療の道を離れ、陽の当たらない脇道へと入っていく。そして、カメラは彼女の背後から、鍵のかかったドアの向こう側にある光景を、彼女と共にリアルタイムで目撃していきます」と解説する。
タニーは、デンマークの写真家ジェイコブ・ホルトやアメリカの写真家トッド・ハイドの作品を参考にした。主人公のあらゆる行動やリアクション、緊迫感を追いかけ、決して切り取ることなくフレームに収めるために、ショルダーカメラを使用した。タニーはディヴァン監督について、「彼女は自分のキャラクターを舞台装置の一要素としてではなく、その中心に据えたかった」と説明する。「そうすることで、観客は主人公と共に出来事を経験することになります。しかも、意識することなく。他の人がフレームに割り込んできて、いつ驚かされてもおかしくないという状況です。そうすることによって、この若い女性の感情への共感が自然と生まれてくるわけです」
アナマリアは撮影中の状況を、「私たちは3つの頭を持つ一つの身体、一つの存在になりました。ディヴァン監督は本能的な側面を追求し、タニーはいつも私の後ろから私の肩の上にいました。私の皮膚の下に入りこむような感覚で、私の行動のすべてを追っていたのです」と説明する。さらにアナマリアは、「この映画は、生命力についての物語でもあります。カメラと私の距離感が縮まるほど、主人公の感情が即座に観客へ伝わり、観客はより深く作品に入り込めると感じるのです」と語る。