原作者から自体件に基づく様々なアドバイスを受けて書き上げた脚本

オードレイ・ディヴァン監督は、アニー・エルノーの小説「事件」を映画化しようと思ったきっかけを、次のように説明する。
「友人から紹介され、この本を手に取りました。小説を読んで、まず浮かんだのは<激しい怒り>です。妊娠を告げられた瞬間から、苦しみを受けたに違いない少女の体や、彼女が直面したジレンマに対する理不尽さに憤りを覚えました。そして、命をかけて中絶するのか、それとも子供を産んで自分の未来を犠牲にするのか。私はそれをイメージに変換しようとしました。そのプロセスは、物語を身体的な体験に変えるものです。きっと時代や性別を超えることができる、旅路になっていると思います」
ディヴァン監督は、原作に敬意を払うと同時に、その中に自分自身の居場所も見つけるために、アニー・エルノーと1日一緒に過ごした。エルノーから当時のことを詳しく教えられたディヴァン監督は、「政治的な背景をより正確に理解した上で、女性たちが決意の瞬間に抱いた恐怖に触れることができました」と振り返る。
そして、まさに中絶を行う瞬間の話を始めた時、エルノーは目に涙を浮かべていたという。80歳を超え今なお癒えていない彼女の痛みと激しい悲しみに動揺したディヴァン監督は、エルノーの涙を思い出しながら脚本を書き始めた。草稿を書く度にエルノーに送り、様々なアドバイスをもらったというディヴァン監督は、「撮影の直前にアニー・エルノーは、チェーホフの言葉を私に送ってくれました。『正確であれ、あとはどうにでもなる』とね」と回想する。