アラビアの女王 愛と宿命の日々

強く、気高く、そして美しく。 時代が、彼女を選んだ――

叶わぬ愛の流転に翻弄されつつ、 アラビアの砂漠で燃え立つような日々を選んだ英国貴婦人。 もうひとりの『アラビアのロレンス』と言われたガートルード・ベルの、鮮やかな運命のアラベスク――

2017年1月21日(土)新宿シネマカリテ、丸の内TOEIほか全国順次公開

Introduction

アラブの民はイギリスの貴婦人ガートルード・ベルを、“砂漠の女王”と呼んだ。
アラビア半島に国境線を引いた彼女の平和的な手腕が、
やがて世界を動かしていく―
20世紀初頭、ひとりの女性が英国を旅立ち、アラビアの地へ向かおうとしていた。彼女は英国鉄鋼王の家庭に生まれ社交界にデビュー、オックスフォード大学を卒業した貴婦人ガートルード・ベル。自由なトラベラーであり、考古学者であり、諜報員となったベルは、やがて“イラク建国の母”と称されるほどにアラビアの地に根付き、情熱を注いでいくのだった。望んでも叶わない2度の悲恋、アラビアのロレンスとの出会い、度重なる困難――。それらが彼女のこころを嵐のように翻弄し大きな傷跡を残したとしても、約束の地こそが、彼女の大いなる生命の源となっていく――。やがて時代は大きなうねりとともに転換し、彼女はその渦の中心の存在となっていくのだった…。
巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督×アカデミー賞®女優ニコール・キッドマン
ベルのミステリアスな魅力に取りかれ、メガフォンをとったのは第35回カンヌ映画祭監督賞『フィツカラルド』などのアカデミー賞ノミネート監督ヴェルナー・ヘルツオーク。そして力強さと美しさとカリスマ性を兼ね備えた彼女をアカデミー賞®女優ニコール・キッドマンが演じ、奇跡的なコラボレーションが結実。さらに『127時間』のジェームズ・フランコ、『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンら若手実力俳優らが脇を固め、異郷への憧れと恐れを見事演じきった。 『アラビアのロレンス』公開から50年超。アラビアの砂漠の地を旅したひとりの女性の壮大な大河ロマンが、100年以上の時を超えて誕生した。
ガートルード・ベル(1868―1926) ベルはアラビアに渡ったのち、往復2,500キロの一人旅を断行、さらに第一次大戦後には、オスマン帝国の支配からアラブの遊牧民ベドウィンを解放させ、イラク建国に情熱を注いだ。そしてその美しさとカリスマ性から、もうひとりの“アラビアのロレンス”とまで称される重要な存在となる。襲いくる過酷な生のレッスンの砂嵐のなかで、ベルは運命に抗いながらも、愛と歴史のタペストリーを紡いでいった。

Story

19世紀後半、イギリス。裕福な鉄鋼王の家庭に生まれたガートルード・ベル(ニコール・キッドマン)は、いらだっていた。オックスフォード大学を女性で初めて首席で卒業、社交界にデビューするも、女性の進出はままならず、周りの男たちは女性を自分の戦利品のように扱おうとしていた。美しいドレス、華やいだ社交界、世界から集められた美術品、そしてありきたりの会話…。そこに彼女の生きる場所はなかった。両親からは早くの政略結婚を希望されていたが、彼女の希望は目が覚めるような世界への扉だった。娘を溺愛する父は、そんな彼女に、テヘラン駐在公使である叔父がいるペルシャへの旅を提案する。一時の熱情はやがて冷め、きっとこの華やいだ生活が恋しくなって、戻ってくるであろうと予測しての提案だった。

しかしガートルードは、アラビアの砂漠の魅惑にとりつかれてしまう。その時父は、彼女が「アラビアの女王」とやがて称賛されることになるであろう、一人娘の姿を予測できなかった。時は20世紀となっていた。それは新たな時代の幕開けの瞬間でもあった。

やがてイランと称されることになるペルシャの公使館でガートルードは、三等書記官のヘンリー・カドガン(ジェームズ・フランコ)と運命的な出会いを果たす。ヘンリーは、イギリスにいた鼻持ちならないどんな男性とも違った。ガートルードの好奇心を受け止め、その好奇心を上回る知性で彼女を支えていく。そんなふたりが自然と惹かれ合うには時間はかからなかった。しかしヘンリーを長い間愛していた従妹のフローレンス(ホリー・アール)は、そんなふたりの関係に心身を消耗させていく。さらにガートルードの父は、身分が違いすぎるということで、ふたりの関係を認めようとはしなかった。彼女は父を説得するために一時帰国をするが、そこで聞かされたのは、ヘンリーは賭博常習者で破産状態にあるという事実だった。傷心のままに過ごすガートルードに飛び込んできたのは、生涯にわたり癒されることのない衝撃の出来事だった。ヘンリーは、ガードルードへの想いが実らないことに苦悶し、自死したのだった。

ヘンリーとの悲恋と、胸の内の深い傷をいさめようと、彼女はますますアラビアの地にのめりこんでいく。アンマンの英国領事館で、考古学とベドウィンの研究のためのアラビア半島の砂漠の旅を申請するも、状況の不安定さから、英国軍人サイクス(ニック・ウォーリング)の怒りと反発をかってしまう。しかし彼女は忠実で優秀なる召使いファトゥーフ(ジェイ・アブド)を伴い、いよいよ2,500キロに及ぶ砂漠縦断の旅へと出るのだった。

Production Note

ニコール・キッドマン演じる、ガートルード・ベル
キッドマンは語る、「この世界観を、ヴェルナーの世界って呼んでいました。ヴェルナーの世界は次元が異なるのです。壮麗という感覚。私は彼に言ったのです。“ヴェルナー、この2ヵ月半の間、なんだかあなたと夢の世界にいたような気分がするわ。今、ようやく地に足が着いたの”。撮影中、物事を探求したり、行ったことのない場所を開拓したくなるような境地にいました。私は人生のすべてを楽しみたいから、私たち全員、つまり一家でモロッコに移動して滞在したのです。そうすれば家族全員が新しい経験ができるから」(ガーディアン紙より)
彼女の探検への興味は、ガートルード・ベル自身の冒険好きな精神を映し出したものだ。キッドマンはベルを大いに称賛しながら、なぜ、ベルが旅行や冒険にあれほど夢中だったのかという疑問に対する彼女なりの考えも明かす。「ベルは故郷を離れて、私だったら夢見るしかできない人生を生きたのです。彼女が成し遂げたことは驚くべきことよ。でも、彼女の行動の原動力は、喪失感だと私は信じていて、それも私の興味を引くのです。そしてスケール感ある風景と、砂漠がもたらしたものが、彼女にとって救済となったのよ。」(インタビュー動画から)
ロバート・パティンソン演じる、新たなアラビアのロレンス
本作に登場するもう1人の伝説的人物は、アラビアのロレンスとして知られるT,E,ロレンスだ。本作ではロバート・パティンソンが演じている。監督は「学生のような雰囲気を持ちながら、非常に知性のある英国人を求めていたんだ。22歳で、遺跡発掘現場で働くアラビアのロレンス…パティンソンにぴったりハマったんだ。彼は知性のある俳優だったから、ごく自然な選択だった」と語る。
本作におけるロレンスの描かれ方について、パティンソンはこう説明する。「ある種、本人に近づけたものだよ。映画『アラビアのロレンス』で描かれるような感じではないんだ。
同時に、彼はとても背が低く、身体的には僕は似ていないんだけれども、彼がどういう人物なのかってことに関しては自分なりによく理解してると思ってるよ」。映画『アラビアのロレンス』と異なり、本作はトマス・エドワード・ロレンスを主人公に据えてはいない。パティンソンは主役でない役を演じることについての考えを明かす。「本作はガートルード・ベルについての物語であって、『アラビアのロレンス』を作っているわけではないんだ。小さな役を演じるのもいいものだよ。僕のやることがすべてってことにならないから、一緒に働きたいと思う人と組むことができるんだ」(インデペンデント紙より)

Cast

ニコール・キッドマン(ガートルード・ベル役)
フィリップ・ノイス監督によるサイコ・スリラー『デッド・カーム/戦慄の航海』(1989年/オーストラリア製作)における演技で批評家筋から高い評価を受けたことをきっかけに、米国で注目されるようになったオスカー女優。オーストラリア人女優として唯一、アカデミー賞主演女優賞を受賞して以降、演技の幅の広さと多才さで、国際的に名を知られ、賞レースの常連の女優となっている。

2003年、スティーヴン・ダルドリー監督作『めぐりあう時間たち』でヴァージニア・ウルフ役を演じ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞、そしてベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。前年2002年には、バズ・ラーマン監督による革新的なミュージカル『ムーラン・ルージュ』で初めて、アカデミー賞にノミネートされた。同作と、続けて出演した映画監督兼脚本家のアレハンドロ・アメナーバルによるサイコ・スリラー『アザーズ』の2作で彼女は2002年のゴールデン・グローブ賞の女優賞にドラマ部門とコメディ/ミュージカル部門でWノミネートされ、コメディ/ミュージカル部門で受賞を果たした。キッドマンが初めてゴールデン・グローブ賞を受賞したのは、ガス・ヴァン・サント監督の『誘う女』(95)。その他、ジョナサン・グレイザー監督作『記憶の棘』(04)、アンソニー・ミンゲラ監督作『コールド マウンテン』(03)、ロバート・ベントン監督作『ビリー・バスゲイト』(91)でもノミネートされている。2010年『ラビット・ホール』でアーロン・エッカートと共演。アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、全米俳優協会賞、インディペンデント・スピリット賞において、女優賞にノミネート。また、2012年『ペーパーボーイ 真夏の引力』でマシュー・マコノヒー、ザック・エフロン、ジョン・キューザックと共演。この作品でオーストラリア・アカデミー賞、全米俳優協会賞、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。

ジェームズ・フランコ(ヘンリー・カドガン役)
『DEAN/ディーン』(01)(ターナー・ネットワーク・テレビジョン)で、タイトルにもなっているジェームズ・ディーンを演じ高い評価を得、ゴールデン・グローブ賞で男優賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)を受賞。さらに、この演技により、エミー賞と全米俳優協会賞にもノミネートされた。

またダニー・ボイル監督の『127時間』(10)では主演を務め、インディペンデント・スピリット賞で主演男優賞を受賞。アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、全米俳優協会賞にノミネートされ、数多くの批評家協会から正当な評価を受けた。 ショーン・ペンと共演したガス・ヴァン・サント監督作『ミルク』(08)では、インディペンデント・スピリット賞で助演男優賞を受賞し、セス・ローゲンと共演したデヴィッド・ゴードン・グリーン監督のコメディ『スモーキング・ハイ』(08)〈未〉では、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。また、サム・ライミ版『スパイダーマン』(02、04、07)三部作におけるヘンリー・オズボーン役でもよく知られている。

ロバート・パティンソン
(トーマス・エドワード・ロレンス(T.E.ロレンス)中佐役)
『トワイライト』(08~10)シリーズのエドワード・カレン役でいま最も注目されている若手人気俳優のひとり。近年ではデヴィッド・ミショッド監督作『奪還者』(13)でガイ・ピアースと共演。その後すぐに、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(14)に出演し、アントン・コービン監督作『ディーン、君がいた瞬間(とき)』(15)では、ライフ誌の写真家デニス・ストックを演じた。
ダミアン・ルイス(リチャード・ダウティ=ワイリー役)
TVシリーズ『HOMELAND』(11~)におけるニコラス・ブロディ軍曹役で最もよく知られている。このシリーズは2012年と2013年のゴールデン・グローブ賞でドラマ部門 作品賞を、2012年のプライムタイム・エミー賞で作品賞を受賞した。ルイス自身は2013年のゴールデン・グローブ賞のドラマ部門 男優賞、2012年のプライムタイム・エミー賞の主演男優賞など、数々の賞を受賞した。また、2013年のプライムタイム・エミー賞でも主演男優賞にノミネートされた。 ルイスが米国で注目されるようになったのは、数々の賞を受賞したTVシリーズ『バンド・オブ・ブラザース』(01)(HBO)で、第二次世界大戦の英雄リチャード・ウィンターズを演じてゴールデン・グローブ賞にノミネートされて以降だ。この作品は、スティーヴン・スピルバーグが監督を、トム・ハンクスが製作を務めた。

Staff

ヴェルナー・ヘルツォーク(監督&脚本)
ドイツを代表する世界的な映画監督で、第35回カンヌ国際映画祭監督賞作品『フィツカラルド』(82)をはじめ、“Into the Abyss”(原題)(11)〈未〉、『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』(10)、『グリズリーマン』(05)〈未〉『アギーレ/神の怒り』(72)、『カスパー・ハウザーの謎』(74)等、監督した映画作品は50作以上にもおよぶ。しばしば、異国へと旅をし、ゲリラ・スタイルの撮影を好み、抽象的で、時に物議を醸す作品で映画界にその名を知らしめてきた。多くの映画で組んできた、伝説の名優クラウス・キンスキーとヘルツォークの黄金タッグは、後世でも永遠に語り継がれることだろう。

ドキュメンタリー『グリズリーマン』は、2005年のサンダンス映画祭でアルフレッド・P・スローン賞を、ニューヨークとロサンゼルスの映画批評家協会賞で最優秀ドキュメンタリー賞を、そして全米監督協会賞でドキュメンタリー部門の最優秀監督賞を受賞した。1999年には、絶賛されたドキュメンタリー“Little Dieter Needs to Fly”(原題)(97)〈未〉でエミー賞にノミネート。北極についてのドキュメンタリー“Encounters at the End of the World”(原題)は2007年のアカデミー賞でドキュメンタリー長編賞の候補に。さらに最近では、ドキュメンタリー“Into the Abyss”(原題)と『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』が高く評価され、世界各国の映画祭で数多くの賞を受賞した。

ペーター・ツァイトリンガー(撮影監督)
撮影、監督、脚本、編集のあらゆる分野で実績のある映像作家である。1995年のヴェルナー・ヘルツォーク監督のドキュメンタリー“Death for Five Voices”(原題)〈未〉で撮影監督を務めてから、ツァイトリンガーとヘルツォークは強力なタッグとして度々仕事をともにしており、その後も“Into the Abyss”(原題)(11)〈未〉、『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』(10)、『グリズリーマン』(05)〈未〉などのドキュメンタリー作品や、『バッド・ルーテナント』(09)や『戦場からの脱出』(07)などのドラマ作品など、数々の優れた作品を共同で世に送り出した。

Credit

<Cast> ガートルード・ベル…ニコール・キッドマン
ヘンリー・カドガン…ジェームズ・フランコ
トーマス・エドワード・ロレンス…ロバート・パティンソン
リチャード・ダウティ=ワイリー…ダミアン・ルイス
ファトゥーフ…ジェイ・アブド
フローレンス・ベル…ジェニー・アガター
ヒュー・ベル…デヴィッド・コールダー
ウィンストン・チャーチル…クリストファー・フルフォード
マーク・サイクス…ニック・ウォーリング
フローレンス・ラセル…ホリー・アール
ラセルズ…マーク・ルイス・ジョーンズ
ミセス・ラセルズ…ベス・ゴダード
トンプソン…マイケル・ジェン
チェスター伯爵…ウィリアム・エリス
アーノルド・ランシー…ジョン・ウォーク
ハーヴェンハースト…リチャード・グールディング
ジュディス…ソフィー・リンフィールド

<Staff> 監督・脚本…ヴェルナー・ヘルツォーク
製作…マイケル・ベナローヤ、カシアン・エルウィズ、ニック・ラスラン
撮影…ペーター・ツァイトリンガー
編集…ジョー・ビニ
作曲…クラウス・バデルト
美術監督…ラビア・ヌガディ、キャロライン・スタイナー
キャスティング…サラ・ベンチェグラ
衣装…ミシェル・クラプトン
サウンドミキサー…ポール・パラゴン
オーケストラ…ロンドン・メトロポリタン・オーケストラ
オーケストラ指揮…アンディ・ブラウン
製作総指揮…ベン・サックス、ジェームズ・レイセク、スティーヴン・ヘイズ、ピーター・グレアム
製作…ベナローヤ・ピクチャーズ
撮影地:モロッコ、ヨルダン、英国(ウェストワイクーム公園)

Review

「ニコール・キッドマンの心のこもった演技は必見!」
―デイリーテレグラフ紙
「女性版『アラビアのロレンス』と名乗るにふさわしい映画」
―インディペンデント紙