緊迫感あふれる車の暴走シーン

「ぜひこの映画を撮りたい。シナリオに書かれたとおり一語一句をそのまま、つまり偽物は使わず、スタジオの中ではなくて道路上に人が乗った車を走らせ、彼らを叫ばせてそれを撮りたい」監督からこのアイデアを最初にプロデューサーへ話したという。「おもしろいのは、全員が「出来ない」「諦めろ」ではなくそれを素晴らしいと考えたことだったよ」。しかし、準備が進み実際に現場に出た際に、最も難しく危険な方法で撮影しようとしていた事に気づかされたという。「例えばこんな事があった。陸軍が電波をシャットアウトしている地域を移動していたため、コミュニケーション用のネットワークがなくなってしまったんだ。突然撮影中にスタッフとやり取りできず、同時に全員にストップをかけられなかったり動かせなくてしばらく撮影ができなかった。トランシーバーが作動しないために300人の人間が動けなくなってしまう。それは完全に予想外の事態で、すべてを実際に撮影するという事の危険と難解さをまざまざと感じたよ。そうして撮影中にみんながプロジェクトの壮大さを実感したんだ。」車の中の俳優を撮影するのが難しいのは、技術スタッフのためのスペースがないことだった。だから演技する車を追う二番目の車に、通常はカメラの後ろにあるものを持っていかなければならなかった。メデューサの隣を同じスピードで走り、だれもが機材をかかえて130kmで走っていたというのだ。130kmで走る車の前でカメラを肩に担いで撮影するのは尋常なことではなかった。撮影監督のアントワーヌ・マルトーと監督は毎日、撮影装置をシーンに合わせて調整した。どの部門でもそれまでにない新たな挑戦を試み、各部門のチーフが、技術的な面が映像には映らないように考え、各スタッフの努力の積み重ねが作品にリアリティをもたらし、そして俳優の演技に鬼気迫るものが宿った。撮影後、監督はこう感じていたという「二度と同じことはさせてもらえないだろうね。(笑)」