Column

主題歌「surge」作詞家
いしわたり淳治 インタビュー
『バジーノイズ』が
素晴らしい理由

・主題歌オファーの経緯

光栄なことに、風間監督やプロデューサー陣の皆さんが、私が二十代の頃に組んでいたバンドSUPERCARを好きだったそうで、打ち込み+バンドサウンドという音楽性やSUPERCARの歌詞の世界観が、AZURと重なるところがあったと聞きました。それがきっかけで声をかけて頂けたのだと思います。

・主題歌『surge』の歌詞について

映画の象徴的なシーンでAZURが演奏とともに流れる楽曲ということだったので、そこに至るまでの間に紆余曲折あった清澄のその時点での心境はどういうものなのか、この楽曲に込めるべき想いとしては何がベストなのかということを、監督と細かくやりとりを重ねました。最終的には、映画には描かれていない清澄目線のアフターストーリーのような文章を監督が長めに書いて下さって、最終稿はそれを元に歌詞全体を組み立てていきました。
イメージとして、清澄の中で生まれた新しい感情や感覚みたいなものを描きたいと思いました。長い間、彼の中にあった恐怖、孤独、諦め、不安、みたいなものは自分だけではなく誰しもが持っているものだと仲間たちとの出会いの中で気づき始め、自分の中で完結していればよかった音楽が、徐々に自分以外の誰かのために鳴り始める。そういう心境の変化を歌に込めたいと思いました。

・完成した映画の感想について

素晴らしいの一言に尽きます。映画として物語が面白いのはもちろんのこと、これまでに音楽映画はたくさんあれど、音楽業界に長く身を置く私から見てもこの映画は、細部の描写がものすごくリアルだと感じました。
清澄の目つきや声のトーンは、何かに怯えているようでいて、ぶれない芯がある。寡黙で、笑顔が少なく、周りを信用していなくて、未来にも過度に期待していない。実際にこういう清澄のような目つきをした若いアーティストに、私自身何度も会って来たような気がします。
他にも、先輩バンドのだらけた雰囲気、ディレクターという職業の人のキャラクターや言動、楽曲制作する部屋の雰囲気や機材とインテリアの感じ、メンバー同士の音楽的な会話のやりとり、ブレイクのスピード感とそれとともに変わっていく景色。そのどれもがリアルです。音に関しても、リハスタはリハスタの音がしているし、ライブハウスはライブハウスの音、デモ音源はデモ音源の音がしています。細部まで強いこだわりを感じました。
この映画は清澄の成長物語として進んでいきますが、潮や航太郎や陸をはじめとしたすべての登場人物の成長物語ではないかと思います。AZURの音楽に触れて、自分の中の“何か”に気づき、それぞれが行動を始めて変わっていく。その様子はある種の群像劇のようにも映りました。観ている人は、登場人物の中の誰かに自分が重なったりするのではないでしょうか。