Column

映画ライター ISO コラム
豊かな“青”が描き出す
現代の青春映画

他人と関わりを避けて生きてきた清澄のたった一つの生きがいは、頭の中で鳴り響く音楽を形にすることだった。その音楽に誘われた隣人の潮が、清澄の周囲に張られた透明なバリアをぶち破るその日までは…。

「ぶち破る」は比喩表現ではなく、実際に潮は清澄に会うため部屋の窓ガラスを破壊するのだ。潮の突飛すぎる行動に虚を突かれつつも、その衝動的な出会いにより瞬く間に映画の中に引き込まれていく。このエモーショナルなオープニングに集約されているように、本作はどこまでも「青い」映画である。物語の性格と同時に、空・海・服と画面上にも張り巡らされた青。それは若さを象徴する色であるが、この映画の青さには孤独や哀切、優しさなどのグラデーションが存在する。題材的に若い世代に向けられた青春映画であるのは間違いないが、豊かな青で描出された本作の深い孤独感や他者との繋がりが生む大きな喜びは世代を問わず響くものであろう。

清澄が没頭しているのはPCで作曲を行う通称、DTM。楽曲制作ソフトに自然音やピアノの音を打ち込んで礎となるサウンドを作り、更にドラムやベースを取り込んだ機材(サンプラー)を指で叩いて楽曲を作り上げる。最初は寂しさを漂わせていたメロディも、清澄が音を加えていくうちに温かみを帯びていく。その作業は決して同じリズム、音だけでは成り得ない。まったく異なるリズムの、まったく異なる音が合流し、相互に作用することで初めて彩り豊かな楽曲へと変化していく。

そのプロセスは音楽という共通項を持った若者4人の人生が交差し、各々の日々が色めきだす本作の人間模様とリンクする。彼らはみな、他者との関わり方に難を抱えた生き下手な人物だ。人付き合いを恐れる清澄、距離感を誤りがちな潮、自主性のない航太郎、攻撃的な物言いをする陸。性格も立場もまったく異なる若者たちが共振し、バンド「AZUR」といういるべき場所に辿り着くことで彼らの人生は輝きを放ち始める。

ボーイ・ミーツ・ガールで幕を開ける物語だが、清澄と潮を繋ぐのは恋愛感情ではない。二人は恋人ではないし、友人というのも少し違う気がする。推しとファンという関係にも似てはいるが、それよりもっと親密に互いを必要としている。そこにあるのは最近公開された三宅唱監督の『夜明けのすべて』(2024)やケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』(2020)とも通底する同志のような繋がり。他人でありながら理解しあい、互いに勇気を与え合う共生的な存在だ。「男女で最も尊い繋がりは恋愛関係」とみなされてきたロマンティック・ラブ・イデオロギーから抜け出して、性別に捕らわれない人と人の営みを青々しい筆致で提示する。もう少し恋愛要素が色濃い原作にもまた違った良さがあるが、映画版『バジーノイズ』は他者との繋がり方が多様で柔軟になりつつある時代性を表した「現代の青春映画」と呼ぶに相応しい作品である。