フランス映画『エール!』の映画化権を獲得した、プロデューサーのパトリック・ヴァックスバーガーとフィリップ・ルスレは脚本家を探す中で、シアン・ヘダーと出会う。ヴァックスバーガーは、「彼女は魅力的なヴィジョンを持っていたので、ユニークな手法で物語を描くことが出来るだろうと確信した」と振り返る。
ヘダーはオリジナル作品の前提を残しつつ、自分らしいストーリーを作り出そうと考えた。自身が幼少期を過ごした土地に近い、マサチューセッツ州の漁村に暮らすキャラクターを創り上げたのだ。ヘダーは、「この登場人物たちを考えるにあたっては、ゼロからのスタートだった」と語る。「私にとって重要だったのは、聴覚に障がいのあるキャラクターをしっかりと作り上げること。家族の中で一人だけ聞こえるルビーを際立たせるためだけのキャラクターにしたくなかった。私が興味を持ったのは、この家族の複雑な力関係や、そこで生まれる葛藤、お互いに依存する家族の中での駆け引き、そんな中にも信じられないほどの愛情があるところよ」
また、ヘダーはルビーの経験には非常に共感できるものがあると指摘する。「親と同じ言葉を話せず、親とは違う世界にいるというコミュニケーションの欠如は、すべてのティーンエイジャーにとって共通する経験よ」
さらにヘダーは、アメリカ式手話(ASL)の授業を受講し、CODA(コーダ)と呼ばれる、聴覚に障がいのある親を持つ子供たちへのインタビューを行った。
完成した脚本を読んだワックスバーガーは、「パーソナルでありながら感動的かつ素晴らしい脚本を生み出してくれたので、監督としても適任だと判断した」と語る。ルスレは、「フランスのベリエ家のエッセンスを、アメリカのロッシ家に移しただけでなく、それを真の意味で変化させ、オリジナルの映画を超えて、本作を唯一無二のものにした」と絶賛する。