世界には200以上の手話が存在する。その中の一つであるASLは、アメリカ英語の単なる置き換えではなく、生き生きとして創造的で流麗に体現された言語だ。すべての単語と手話に直訳があるわけではないため、ASLと英語の間で直接翻訳するのは難しい。そのためヘダーは、聴覚に障がいがあり、俳優でダンサー、監督で教育者でもあるアレクサンドリア・ウェイルズを、本作のASL監督(DASL)として迎え入れた。DASLとは、ASLマスターとも呼ばれ、演劇の経験が豊富で、ろう文化や歴史を理解している人物のこと。作品の時代、地域、出演者の性別に応じて、どの手話が一番ふさわしいのかを決定する。
ヘダーは必要とされるすべての翻訳を、ウェイルズと一緒に行った。ヘダーが台詞にこめた意図や想いを手話で伝えるために、台詞の方を修正することもあった。また、主人公の家族は漁業を営んでいるため、魚の種類や地域の訛りについてのASLのリサーチも必要だった。
ASLは書き言葉ではないため、ウェイルズは俳優たちのために動画を録画した。ウェイルズは、「ASLの知識がない役者には、覚えるための表記方法を提案した。絵を描く人もいれば、文章に丸や下線を引き、余白に情報を書き加える人もいる。動画を録画する人もいれば、筋肉の条件反射がすごい人は頭と体に記憶させていたわ」と振り返る。
さらに撮影現場にも、ASLの達人たちが入り、モニターを見ながら細かい指示を出した。