70キロ→97キロ→70キロ! 名優史上最難関の肉体改造

主人公がレスリングをしていた若い頃から、50代までの半生を演じることになった52歳のアーミル・カーンは、肉体改造という大きなミッションに取り組んだ。主演が決まった時、カーンが痩せていたため、ティワーリー監督は、若い頃の撮影から開始し、その後、太ってからを撮ろうと提案した。「でも、私はそうしたくなかった」とカーンが説明する。「太った時代をあとに撮ってしまったら、減量する理由がなくなってしまうからね。私は怠け者なんだ」とカーンは笑う。
 「体重を増やすのは楽しかった。食べたい物を食べ、飲みたい物を飲むという、素晴らしい時間を過ごした。それは否定できない。しかし、同時に最も居心地が悪くもあった。体が重すぎて素早く動くことができず、レスリングのトレーニングにも響いた。ご存知の通り、体重が増えると、息づかいが変わる。ボディランゲージが変わり、歩き方、座り方、立ち上がり方、全てが変わる」とカーンは説明する。
 ボディスーツを着て太く見せることもできたが、カーンは「ボディスーツは、役者として面白みに欠ける。太ったという実感が得られない」と指摘する。結果、5カ月をかけて、カーンは体重を70キロから97キロに増やし、体脂肪率も9%から38%に上げた。
 中年太りの時代を撮り終え、若い時代の撮影準備が始まった。「大変なことになってしまったと思ったよ」とカーンは苦笑いする。「目標ははるか遠くにあり、非常に難しく見えた。絶望が私の心を支配し始めていて、それに打ち勝たなければならなかった。だから私は毎日、ただ今日のことだけを考えよう、旅の終わりのことについては考えるなと、自分に言い聞かせたんだ。」
 アメリカのニキル・ドゥランダル医師が、カーンの栄養士を務めた。彼の指導で特別ダイエットプランを立て1日の摂取カロリーを、1800~2500カロリーに制限した。トレーナーのラフール・バットは、「体を変化させるには、まずは食事療法だ」と断言する。どれだけ運動したとしても、食事が良くなければ、良い結果は得られないというのだ。
 過去の作品でも驚異の肉体改造で知られるカーンをもってしても、今回はあまりにもハードで、「無理だ」と弱音を吐くこともあったという。バットは「そんな時は『ウェイトを軽くして、トレーニングは続けよう』と提案した。でも本当はウェイトを軽くせず、『実は今までのトレーニングの中で一番重いウェイトにしていた』と明かし、自信を持ってもらった」と語る。4ヶ月後、カーンは体脂肪を18%まで減らし、遂に5か月後に9.67%を達成した。
 撮影は、2015年9月1日に始まり、1年近くもの時間がかけられた。本作を通じて、カーンはマハヴィル本人とも仲良くなり、ギータの誕生日に招待されるなど、今でも連絡を取り合っているという。また、完成した作品を観たフォガト一家は、「非常に感動的な時間を過ごしてくれた」と、ティワーリー監督は胸を張る。