ディケンズの物語に新たな命を吹き込んだ監督が、まず大切にしたのは、小説がもつコメディの要素であった。「小説の中の面白おかしい描写」(例えば、デイヴィッドが初めて酔っぱらうところなど)こそが、よく練られた最も楽しい箇所だと話す。「どこかドタバタなコメディ要素があるんだ。デイヴィッドが法律事務所に就職した際に、きしむ床と挌闘するシーンとかね。それに、ドーラに恋に落ちた途端、彼を取り巻く世界が瞬く間に彼女一色になってしまい、雲の中にさえも彼女の顔が見えてしまうところとか。シュールであると同時に、リアルでもある。そういった要素を映画の中に取り入れたいと思った」。イアヌッチ監督と何度も共同で作品を手がけてきた脚本家のサイモン・ブラックウェルは言う。「これは僕が今までに読んだ中で最も可笑しい小説のひとつ。しかし長いために映像化する際、コメディ要素を取っ払ってしまう傾向がある。笑いの部分は、物語の筋とは無関係だからだ。でも、その部分こそが面白い。『1850年代の頃は、こういったことが面白かったんだ』とは思わない。今でも通じる面白さなんだ」。