始まりは美術館

すべては美術館から始まった。画家であり映画監督でもあるジュリアン・シュナーベルは、フランスの著名な脚本家・作家であり、2014年にはアカデミー賞®名誉賞も受賞している友人ジャン=クロード・カリエールをオルセー美術館に誘い、「ヴァン・ゴッホ/アルトー 社会が自殺させた者」(アントナン・アルトーの著作から引用)という展示で、ゴッホの「自画像」、「ゴーギャンの肘掛け椅子」、「医師ガシェの肖像」、「ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女」、「古靴」など40作品を観てまわった。
これを機に、本作で共同脚本を手掛けることとなったカリエールは振り返る。「我々は、絵からわずか20㎝ほどの距離でゴッホの自画像を観ていたので、ジュリアンとゴッホと私は3人で向き合っているようだった。そこでジュリアンがゴッホの技法について語り出したんだ。私には、まるでゴッホが“シュナーベルという画家による、自作への見解”を聞いて楽しんでいるように見えた。当時、私は82歳だったが、一枚の絵を前にあんな気持ちになろうとは夢にも思わなかったよ。私は、一枚の絵によって、いかに遠くまで行くことができるのかに気付いた。あの日の体験は、命というものに踏み出していく物語のようだった」
そして彼らの話題はいつしか映画になり、この日の午後には、シュナーベルの頭にはすでに自分が作りたい映画の構成が浮かんでいた。彼は言う。「芸術作品の前に立っていると、その作品の声が聞こえてくる。さらに30作もの絵画を観ていけば、さまざまな感覚や印象が混ざり、蓄積していく。私は、この効果を映画に取り入れたかった。ゴッホに起こった出来事をひとつひとつ重ねていけば、そこには人生が形成され、観客が彼の人生を追体験できると考えたんだ」
そこにカリエールが付け加える。「何より面白いと思ったのは、画家の人生を画家が映画という手段で表現するというアイデアだね!」