63歳のデフォーと、
37歳のゴッホ

 ゴッホを演じるウィレム・デフォーについて、「この役には彼しか考えられなかった」とシュナーベルは言う。「ゴッホは37歳で亡くなった。ウィレムは63歳だが、ゴッホは37歳になる頃にはぼろぼろだったし、ウィレムは申し分のない体をしている。ゴッホは景色を見るためにあちこちよじ登ったりする、非常に要求の多い役だけれど、ウィレムは体力に溢れていて、骨の折れる行動すべてをこなしてくれた。彼の役柄に対する深い探究、身体的スタミナ、想像力のおかげで、作品は脚本をはるかに上回るものになった。彼は役を演じているが、魂に肉体を与えているとも言える。ウィレムはゴッホの物語を語る一方で、彼独自の芸術の形をも模索していたんだよ」
 デフォーはシュナーベルから連絡が入る以前から、この役柄を切望していた。「ジュリアンとは昔からの友人で、彼がゴッホについての映画を撮ると聞いて是非演じたいと思った」とデフォーは回想する。「ジュリアンに話したら、スティーヴン・ネイフとグレゴリー・ホワイト・スミスの『ファン・ゴッホの生涯』を読むよう言われた。だからその本を読み、興味を覚えた箇所、気になった引用、ちょっとした詳細を全部メモしたんだ。それをジュリアンに送ることから、役作りの作業が始まった。ずっとそんなふうに作業した」
 そこからはさらに深淵な創造の旅が始まることになる。シュナーベルはスクリーン上でデフォーがただ絵を描く真似をするのではなく、本当に絵を描いて、カンバスに対して肉体的、感情的、本能的に向き合うことを望み、デフォーはシュナーベルから一対一で絵画のレッスンを受けた。
 デフォーは振り返る。「これはゴッホについての映画であると同時に、絵画についての作品でもある。だから私にとって役作りの重要な部分は絵の描き方を学ぶことであり、物の見方を学ぶことだったんだ。とても簡単なことから始めたよ。筆の持ち方とかね。そのうちにジュリアンは私に自分で絵を描いてみろと言い、絵を描くことはゴッホの現実を掘り下げる役に立った。カンバスの触れ方、色へのアプローチ法、どんな戦略で描き、その戦略をどう捨てていくかについて学んだ。キャラクターがしていることを実際にやって役作りをするのは効果的だ。そうすることで、対象がどんな人物かを解釈するのではなく、対象の中に宿るようになるんだ」