撮影現場に新風をもたらした
オスカー・アイザック

 本作の物語にはもうひとり巨匠がいる。ポール・ゴーギャン、アルルでゴッホと共同生活をした人物だ。二人の激動の関係がゴッホの狂気の発作を引き起こしたとよく考えられるが、シュナーベルは、この二人が他の誰にも聞かれることなく、どのような会話をしたのか、芸術家としてどう影響し合ったのかに断然注目した。「ゴッホはモデルを前にして絵を描いたが、ゴーギャンは記憶と想像から絵を描いたということに、私たちは特に興味を引かれた」とカリエールは語る。
 ゴッホとゴーギャンの作風は全く異なるものの、ゴーギャンはゴッホを芸術的にも知的にも自らと対等であることを認めた人物だ、とシュナーベルは考える。「大抵の映画で、ゴーギャンはゴッホを扱い切れなかった嫌な奴と描かれている。でも実際のところ、ゴーギャンはアルルを去った後にゴッホに宛てて、あるいは彼について、とても美しい言葉を書いているんだ。ゴーギャンがゴッホにあてた手紙がある。療養所にいる彼に絵を一枚交換したいと綴ったものだよ。この手紙はゴッホが望みうる最高の批評だった。ゴッホにとってはゴーギャンがどう考えていたかが大事だったからね。そしてゴーギャンもまたゴッホのことを気にかけていたというのが事実なんだ」
 ゴーギャンを演じたオスカー・アイザックがセットに到着した時、現場の流れが変わったという。それは、ゴーギャンがアルルでゴッホの生活を変えたことをどこか反映するようだった。当時を振り返りアイザックはこう説明する。「僕が来るまで、ジュリアンとウィレムは自然の中で歩いたり絵を描いたりと、ゆったりした空気の中で撮影していたんだ。そこに突然僕が到着し、シーンとセリフが生まれた。だから撮影チームの皆も、ゴーギャンの到着が新しい風をもたらしたとリアルに感じたんだよ」
 アイザックにとっての本作の見どころは、観客それぞれが独特の体験を持てるという、主観的な点だという。「こんな映画には出会ったことがなかった。創造における爆発と内なる葛藤の爆発がないまぜになっていたゴッホを、リアルに実感できるんだから!」