映画化が決まり、肝となるゴダール役にミシェル・アザナヴィシウス監督はルイ・ガレルを抜擢する。その理由をアザナヴィシウスはこう語る。「ルイは聡明でありながらコメディにも長けている。ゴダールはいつだって愉快なんだ。メガネは壊すし、もぐもぐ話すし…。バスター・キートンみたいだ。だからルイのような笑いのセンスを持ちながら、非常に才能豊かで勤勉な役者が絶対に必要だった。」
そんな監督の依頼だが、ルイは二つ返事では引き受けられなかった。「どんな俳優にとってもゴダール役はとても怖い。クリスチャンが冒涜に身を落としていると感じることなく、どうやってキリストを演じることができるだろう? 僕にとってはそれと同じで、ゴダールの崇拝者としてこの役は演じられない、って思ったよ。」
そんなルイと、アザナヴィシウスはたくさんの対話を重ねる。本作はアンヌ・ヴィアゼムスキーの視点が主軸となること、伝記映画ではなく人生の転換期と歴史上の転換期を同時に迎えた一人の映画製作者についての物語であること、そして男と女のラブストーリーであること。監督の話を聞き、主旨を理解したうえで脚本を読み始めたルイは、最初のページから虜になってしまったと言う。「洗練されたコラージュ作品のようだし、題材にも興味をひかれ夢中になったよ。でも一番驚いたのは表現方法だ。ゴダールが映画から離れ、あらゆる関係を自ら断ち、行動主義に身を投じていくと同時に、アンヌとの関係も混沌へと向かっていく。これらは本に描かれていることだけれど、アザナヴィシウスの脚本はエットレ・スコーラのコメディを彷彿とさせた! 物語はドラマティックなのに、シチュエーションはすごく喜劇的に描かれているんだよ!」