アンヌ・ヴィアゼムスキー役の配役について、アザナヴィシウス監督はこう語る。「僕が若い女優を探し始めた時に、ベレニス・ベジョが『シークレット・オブ・モンスター』(15)で共演していたステイシーを思い出させてくれた。電話して、テストを受けに来てもらい即決したよ。ステイシーはいかにも60年代の若い女性らしい。パリ生まれだけどロンドン在住で、幼少期に外国で暮らしていた。ほんの少し訛りがあって、彼女が話すとそこはかとなく時を超越する雰囲気がして、僕はそれがとても好きなんだ。彼女の顔には悲劇的な美しさがあり、ガルボのようなサイレント女優的な趣もあるから、観客はそこに想像力を刺激される。いろいろな感情とニュアンスが豊かに重なって、言葉がなくても人物の存在感を伝えてくれるんだ。」
ステイシーは当時をこう振り返る。「監督は最初、作りたいのは伝記映画ではなくゴダールについてのコメディ映画なんだって言いながら、私にアンヌの本をプレゼントしてくれた。私は『バルタザールどこへ行く』(64/アンヌ・ヴィアゼムスキーの映画デビュー作)を数年前にロンドンの映画館で見ていたのだけれど、ストーリーはシンプルなのに深遠で、アンヌが本当に美しかった。ピュアであると同時に官能的で、それが当時とても印象的だったのを覚えているわ。」
アンヌの役作りに取り組むにあたり、ステイシーはゴダール作品はもちろんだが、トリュフォーの作品もたくさん見たと言う。「ゴダールの映画は完全に編集されているので、当時の直接的な情報を得るのが難しかった。あの時代の人々の話し方、身のこなし、ふるまいを見るためには、もっと日常的で自然なものが必要だと思ったの。トリュフォーの作品にはこの点でとても助けられたわ。」