監督、ルイ、ステイシーらが口を揃え、本作中で一番好きなシーンの一つとして挙げるのが、カンヌから帰ってくる車のシーンだ。6人の登場人物がワンカットで撮影したシーンにスシ詰め状態になっている。監督は撮影を振り返る。「1日半掛かって撮ったよ。いちばん大変だったのはタイミングの調整、つまりセリフの間と沈黙の管理だよ。全部をきっちり精確に実行する必要があって、とても時間と労力がかかった。カットで撮って後から全部組み立てればもっと簡単だったけど、ワンカットワンシーンで撮りたかったんだ。ルイ、ステイシー、ベレニス、グレゴリー・ガドゥボワ、ミシャ・レスコー、そしてエミール役のマルク・フレイズ―皆が狭い密室にぎゅうぎゅう詰めになっていた。1平方メートルあたりにすごい密度の才能が詰まっている!これは、楽しすぎるよ!」
ルイも続ける。「あのシーンは、その文脈を知るともっと面白いんだ。ゴダールはカンヌ映画祭を阻止するために南に車を走らせた。彼の友人のミシェル・クルノーは自身の映画『青い恋人たちの詩』(68)が映画祭で上映されるのをまだ望んでいたというのに。そこから、ひどい口喧嘩が勃発したんだ。監督はワンカットで撮った。僕ら全員が常に画面にいるんだ。皆が巻き込まれるにつれて、どんどん密度が濃くなる。このシーンは即興に見えるけれど、実際は細部まで計画されたものだ。監督の望んだものが出来上がるまで2日かかったよ。ほとんどの素材は、僕らのヒステリカルな笑いが入っちゃって使い物にならなかったからね。笑いを我慢するのが難しかったんだ。すごくおかしかったんだよ。現場に入り込んで、俳優と仕事をすることを愛す監督がいる。アザナヴィシウスはその1人だ。」
ステイシーにとっても、このシーンはとても印象深いようだ。「とても暑くて、私たちはぎゅうぎゅう詰めだった。30テイクは撮ったわ。撮影開始のずいぶん最初の頃、監督は前もっていろいろ説明する代わりに、現場で『荒野の七人』(60)の曲の一部を流したのよ! 私達の間にたちまちチーム魂が燃え上がったの。私たちは軍団の一員なんだって意識が湧き起こった。監督は、温かくて創造的なやり方で私たちを奮い立たせたのよ!」