1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。79年『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、85年『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、93年『深夜特急第三便飛光よ、飛光よ』でJTB紀行文学賞、2006年『凍』で講談社ノンフィクション賞、14年『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞、22年『天路の旅人』で読売文学賞随筆・紀行賞を受賞する。日本を代表する作家の一人。著書に『敗れざる者たち』『彼らの流儀』『檀』『流星ひとつ』『波の音が消えるまで』『銀の街から』『銀の森へ』『キャパへの追走』『旅のつばくろ』など多数。著作の映画化は『春に散る』が初となる。
COMMENT
理想の日々を描く
人は、どのように生き切ればよいのかということが心に浮かぶようになったとき、初めて自分はどのように死に切ればいいのかと考えるようになるのかもしれない。
私はこの『春に散る』という小説で、ひとりの初老の男に、生き切り、死に切れる場を提供しようとした。それはある意味で、同じような年齢に差しかかった私たちにとって、人生の最後の、ひとつの理想の日々を描くことでもあっただろう。
私は映画の制作スタッフに『春に散る』というタイトルと広岡という主人公の名前を貸すことに同意した。しかし、同時に、それ以外のすべてのことを改変する自由を与えることにも同意した。というより、むしろ、私がその一項を付け加えることを望んだのだ。
文章の世界と映像の世界は目指すところの異なる二つの表現形式である。映画の制作スタッフが、広岡をどのように生き切らせ、死に切らせようとするのか。あるいは、まったく別のテーマを見つけて提示してくれるのか。
楽しみにしている。