映画の中で起こる出来事の大部分はモーテルにあるロート家の自宅か、オーティスのリハビリ施設で起こる。プロダクションデザインのJ C・モリーナが手掛けた詳細にわたる装飾で、それぞれのセットに親近感と生活感がもたらされてるのだ。シャイアの育った環境の社会経済的な雰囲気を表現したものになっているのだ。ロケ場所は、スタッフたちがロサンゼルス中を探し回った後、サンバレーに落ち着いた。サンバレーは、サンフェルナンド・バレーの北東部にある労働者階級のコミュニティー。監督はこう言う。「モーテルに着いて見たら、その建物はピンク色だった。実際に、ピンク・モーテルっていう名前だったのよ! 私は、昔のサーカスのポスターのような色彩を使いたかった。その建物がジェームズの一部であるかのように描きたかったの。シャイアと父親が住んでいるのを想像できたわ」。
撮影監督のナターシャ・ブライエはブエノスアイレス出身でニコラス・ウィンディング・レフン監督の心理ホラー『ネオン・デーモン』などを手掛けた実績の持ち主で、ハレル監督が求めていた視覚情報と技術の持ち主であるということは一目瞭然だった。フロイト精神分析医を両親に持つブライエは、精神療法の過程に興味があると言う。「この脚本は、シャイアがリハビリ中に書いたものだっていうことにすごく心を惹かれたの。脚本のあちこちで、激しい感情が感じられた。映画全体が、ある意味で常軌を逸した実験みたいなもので、その冒険に一緒に乗り出したのよ」。
ブライエは撮影中モニターで確認しながら、常に照明を暖色または寒色に調整したり、コントラストや深みや色を調整したりしていた。「まるでジャムセッションのようだった。調光盤にできるだけ多くの選択肢を準備したのよ。道具は準備できていたから、あとは、私がその瞬間にちゃんと反応するだけ。それがアルマのやり方に合っていたの。アルマは従来の方法の映画制作は好まないから(笑)」。