ドイツ、ミュンヘン。幼い娘の誕生パーティに、招待されてもいないのに酒に酔って現れ、別れた妻から「正気?」と追い返されるカール(ゴロ・オイラー)。仕事も家族も生きる希望さえも失ったカールが、泥酔の底で「助けて」とつぶやいた翌日、ユウ(入月絢)という名の若い日本人女性が訪ねてくる。カールの亡き父ルディと親交があったというユウは、ルディが生前暮らしていた家を見たいというのだ。 よく知らないユウと共に、郊外にある今は空き家となった実家へと向かう羽目になるカール。父の墓の前で手を合わせて涙を流しながら「彼は私に優しかった」と話すユウの言動は、すべてがとても風変りだった。実家に入ると、いい思い出も悪い記憶も次々と蘇り、カールは両親の幻影と共に数日間を過ごすことになる。 ある晴れた日、ユウの希望で観光名所のノイシュヴァンシュタイン城へ出掛けたカールは、土産物売り場で働く義姉に出くわす。彼女から甥っ子で高校生のロベルトが引きこもりになったと聞いて驚くカール。兄のクラウス(フェリックス・アイトナー)が、極右政党に入党したことが原因だった。心配のあまり兄の家へ立ち寄ったカールは、帰宅した兄と大げんかになってしまう。
兄クラウスと姉カロ(ビルギット・ミニヒマイアー)とカールの3兄弟は、子供の頃から仲が良くなかった。母親に溺愛されていた末っ子のカールに、兄と姉が嫉妬していたのだ。母に続いて父が亡くなった時には相続でもめ、以来、完全に疎遠になっていた。こうして、カールは次第に目を背けてきた自らの人生と向き合い始める。両親の期待に応えられなかった不甲斐なさ、親の死に目に逢えなかった後悔、家族との縁を切ってきた不義理、そして本当の自分をさらけ出すことが出来なかった過去のすべて―。ユウはそんなカールの耳元でそっとささやく「あなたは今のままでいいの。愛してる。」 ずっと止まっていた時計が少しずつ動き始めたカールが、新たな人生へと一歩を踏み出そうとした、まさにその時、ユウが忽然と姿を消してしまう。ユウを捜しに遥か海を超え日本を訪れたカールは、彼女の故郷である神奈川県の茅ヶ崎海岸へ向かう。ユウの面影を追ううちにカールがたどり着いたのは、茅ヶ崎館というひっそりとした旅館だった。そして茅ヶ崎館の老いた女将(樹木希林)との思い掛けない交流から、カールは哀しくも美しい、知られざる人生の物語を知ることになる──。