劇中の約70%を気球の飛行シーンが占め、狭いバスケットの中でドラマが展開。それに加え、『マッドマックス 怒りのデスロード』同様、“行って還ってくる系”のシンプルなストーリーライン。まさに、体感型アトラクションムービーの要素たっぷりといえる本作。
リリー・ジェームズ主演のTVシリーズ「戦争と平和」で注目を浴びたトム・ハーパー監督による「観客にも、気球に乗っている感覚を体感してもらいたい!」という強い意向もあって、ほとんどの飛行シーンをスタジオではなく、空中で撮影。キャストだけでなく、撮影監督も気球に乗り込み、大空を漂いながらカメラを回すという命懸け&最先端技術だからこそ成しえた、ダイナミックな大パノラマが目の前に広がっていく。また、音響効果にはドルビーアトモスのレコーディング技術を導入。主人公に迫りくる危機また危機、さらに高度11000m、気温マイナス50℃という、前人未到の天空世界をリアルに再現し、そこから醸し出される圧倒的な臨場感は、宇宙からの決死の帰還を描いた『ゼロ・グラビティ』にも匹敵するほどである。
また、『ゼロ・グラビティ』でも音楽を担当したスティーブン・プライスによるドラマティックなオリジナルスコアも、さらなる緊迫感を煽り、101分間、手に汗握りっぱなし。これまで、体験したことのないサバイバル・アドベンチャーに仕上がっている!
世界的物理学者スティーブン・ホーキングと彼の献身的な妻を熱演し、ともにアカデミー賞候補になったうえ、主演男優賞を受賞するなど、一躍スターダムに昇りつめた感動作『博士と彼女のセオリー』から5年。ずっと再共演を望んでいたエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが、満を持して挑むことになった本作。
『ファンタスティック・ビースト』シリーズの魔法使いもいいが、やはりどこか堅物な博士役がいちばん似合うエディ。それに対して、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のヒロイン以上に活発なキャラを演じるジョーンズの姿を見られる贅沢さに、思わず胸アツ。男女の関係を超えた強い絆で結ばれ、次々と襲い掛かる困難に挑むジェームズとアメリアを演じるには、抜群に相性のいい2人以外考えられないといえるだろう。
また、高所で酸欠状態になった脳の感覚をシミュレーションした訓練を受け、撮影現場では常に氷の中に手を浸し、リアルな震えや青い唇を再現するといった役者魂も魅せてくれる2人。ジョーンズに至っては、高度11000mの気球の外観を登り、頂上で命懸けの行動を取るという、ジャッキー・チェンばりに身体を張ったアクションも披露。思わず悲鳴を上げてしまいそうなハラハラドキドキ感は、吊り橋効果にも繋がることから、デートムービーに最適の一本といえるかもしれない。
ジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』、ウディ・アレン監督作『女と男の観覧車』、ルカ・グァダニーノ監督作『サスペリア』など、これまで映画ファンを唸らせる良質な作品を送り続けてきた「amazon studio」が、ディズニー版『美女と野獣』プロデューサー、トッド・リーバーマンの下、制作費4000万ドルを投じて製作した超大作である本作。
主演の2人のほかにも、ダニー・ボイル監督作『イエスタデイ』で奇妙な体験をする主演に大抜擢されたヒメーシュ・パテル、名作『長距離ランナーの孤独』のトム・コートネイ、監督としても知られるフランス人俳優、ヴァンサン・ペレーズら、実力派キャストが共演。また、気球エキスパートの協力を得て、美術監督は機能する当時のガス気球のレプリカを完全再現するほか、1862年のロンドン・ヴィクトリア朝時代の街並みも完全再現!
19世紀のイギリスで、国民的一大イベントであった熱気溢れる「気球飛行大会」から、二人が互いを見つめる静かで力強いヒューマンドラマと、天空が舞台のアクション映画が融合した型破りな展開に突入! まさに至福の映像ライド体験といえる『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』は、Amazonプライムでの配信ではなく、映画館の大スクリーン&大音響で体感すべき一作といえるだろう。
テキスト by くれい響 <映画評論家>