原作小説には複数の映画会社が興味を示していたので、ロンドンとパリを拠点とし、『ウィークエンド』(11)と『さざなみ』(15)をヘイとともに手掛けたイギリス人プロデューサー、トリスタン・ゴリハーは映画化権獲得を急ぐ必要があった。『さざなみ』とHBOのTVシリーズ「Looking/ルッキング」(14-15)の撮影を終えると、ヘイはすぐさまポートランドに飛んで原作者のヴローティンと会い、彼の3作目となる小説の映画化権を獲得。脚本に取り掛かった。
ヘイはヴローティンに連れられ、チャーリーがピートと出会ったポートランド・メドウズ競馬場など、小説にインスピレーションを与えた場所を訪れたのち、チャーリーとピートが辿ったアメリカ北西部のルートを実際に車で旅した。オレゴン、アイダホ、ワイオミング、ユタ、コロラドの順に移動し、オレゴンの田舎町の農業祭や地方競馬を見てまわった。ヘイは振り返る。「原作に登場するモーテルに泊まり、キャンプをし、缶詰のチリビーンズを食べ、写真を撮りまくった。車で3ヶ月旅をしたことで、ヴローティンが描いている世界を少し体験できて、アイディアをもらえたよ」
ヘイが脚本の第一稿をヴローティンに送り、それを読んだヴローティンから感想とアドバイスが届く。「どこを残し、どこを削るか。判断が難しかったから、ヴローティンがアドバイスをくれたおかげで脚本を書き進めることができた。それにヴローティンは、調教師や騎手やマネージャーなど、ポートランド・メドウズ競馬場で働いている人たちに連絡を取り、引き合わせてくれたんだ」
ヘイが車で旅をし、リサーチをしながら脚本を書き進めている間、プロデューサーのゴリハーは小説に登場する実際の場所で撮影できるよう手筈を整えた。ゴリハーは語る。「これは自分の居場所や家族を探し求める少年の物語だ。主人公チャーリーの旅路は、同時に、社会で最も立場の弱い人間が歩んだ道でもある。彼は生き延びるため、自分の居場所を見つけるために旅に出る。それは現代において誰もが懸命に行っていることだから」
ヘイは言う。「この国はびっくりするほど美しい。大地の美しさを含め、1つの国家であるという事実を理解するまで、僕には何年もかかるだろう。ヨーロッパとは根本的に違うアイデンティティと活力と多様性がある。旅の先々で、愛国心がとても強い人々に出会い何度も驚いた。経済的な困難に直面していても、何度挫折したとしても、今でもアメリカンドリームを信じているんだよ」