2013年に公開された『パシフィック・リム』は日本で熱狂的なファンを生みました。その大きな理由は、日本のロボットアニメや怪獣映画へ多大なリスペクトを捧げていること。ド迫力の戦闘シーンの数々、「ロボットに乗っている!」という実在感を作り上げるまでに、どれほどの尽力があったのか……想像がつかないほどです。
『クボ』の日本への愛も、並大抵のものではありません。監督は黒澤明作品や斉藤清の木版画を参考にし、日本の風景や衣装を徹底的にリサーチ。灯篭流しという文化や“わびさび”という日本独特の概念までもがストーリーに深く関わっているなど、“日本ならでは”の魅力を最大限に推し出していました。
しかも『クボ』は「人形や小物をカメラで撮って、ちょっとだけ動かして、また撮影して、また動かして……」という気が遠くなるような作業を繰り返して作られたストップモーションアニメで、その総作業時間はなんと114万9015時間! 1週間で制作されるのは実際の映画の尺でたったの3.31秒!
『パシフィック・リム』と『クボ』に共通しているのは、世界最高峰のスタッフが、最新の技術を尽くし、尋常ではない労力をかけて、日本文化への愛が溢れた作品を作ってくれた、ということ。つまり、それは最高の“日本へのラブレター”に他なりません。これだけでも、『パシフィック・リム』が好きな人はもちろん、全ての日本人に観て欲しいのです。
2016年に公開された日本のアニメ映画『この世界の片隅に』は各方面から絶賛され、SNSを中心にした強力な口コミ効果により当初の3倍以上に上映館数が拡大、大ヒットしたことが話題になりました。
『クボ』もまた、映画を観た方がTwitterで続々と絶賛し、「#一生のお願いだからクボを観て」という切実に観て欲しいと訴えるタグも広まり、愛に溢れたファンアートもたくさん生まれるなど、口コミが拡大。公開3週目を迎えてからは首都圏の劇場で満席が相次ぎ、前週比を超える興行収入を記録しています。
『クボ』の3週目の上映では、観客からは自然に拍手が起こったこともありました。試写会でもない、通常の上映での拍手は『君の名は。』や『この世界の片隅に』などのごく限られた作品でしか起こり得なかったこと。エンドロールが終わるまで、ほとんどの人が席を立つことなかったというのも、「この素晴らしい作品の余韻に浸りたい」という想いがあったからなのでしょう。
さらに、『クボ』と『この世界の片隅に』は、キャラクターのほんの少しの動作で“生きている”ことを感じさせること、昔の日本の暮らしや文化に触れられることなども共通しています。『この世界の片隅に』で感動したという方は、絶対に『クボ』も観て欲しい……そう、切実に願います。
『クボ』は“冒険活劇”です。お供になるのは口うるさいサルと、ちょっと間が抜けたクワガタ。彼らが旅に出て、強大な敵と戦い、時には信頼し合い、時には本気でお互いを心配するという過程などで、『天空の城ラピュタ』を始めとしたジブリ映画を思い出す方も多いでしょう。
そう、『クボ』は何より「ワクワクする!」「楽しい!」「面白い!」エンターテインメントなのです。幼稚園くらいのお子さんから楽しめますし、大人も往年のジブリ映画にあった魅力を劇場で“体感”できる、またとない機会になるはず。美しい風景や、イマジネーション溢れるシーンの数々、躍動感たっぷりのアクションも詰め込まれているので、一時たりとも退屈することはないでしょう。
ちなみに、『クボ』の監督はジブリ映画の大ファンであり、娘さんにもよく『となりのトトロ』を観せているのだとか。作中にも、ジブリ映画の影響と思しきシーンがたっぷりとありますよ!
また、『クボ』は「楽しい!」「面白い!」冒険活劇であると書きましたが、実はそれ以上に「切なくて」「とても優しい」物語でもあります。そこには、お子さんにも、また人生の酸いも甘いも噛み分けた大人も、それぞれが心に沁みる感動があるはずです。
2016年に公開された日本のアニメ映画『君の名は。』は、日本の歴代興行収入で史上4位、社会現象と呼ぶべき特大ヒットを記録しました。同じ作品を複数回観る、いわゆるリピーターが多く劇場に駆けつけたことも、さらに観客動員数を増やすことにつながったのでしょう。
筆者は『クボ』を3回劇場で鑑賞しましたが、驚くことに1回目よりも2回目、2回目よりも3回目のほうが、さらに感動が増しました(3回目はもう号泣しすぎて喉がカラカラ)。それは『君の名は。』と同じく“一度目の鑑賞では気づかなかったことに気づける”“後の展開を知ってこその感動がある”からでした。
さらに、『クボ』はストップモーションアニメだからこその、細かい動きの1つ1つの繊細さ、“このキャラクターは生きている”という実在感も、観るたびにさらにわかるようになっています。
何気ない仕草や台詞も、後の展開に重要な意味を与えています。例えば、「髪をかきあげてあげる」というしぐさに注目してみると……ネタバレになるので書けませんが、“それ”に気づいた時にもまたも泣いてしまいました。
また、『クボ』は日本語吹替版と字幕版が公開されており、それぞれが声の演技、翻訳も含め最高品質のクオリティ、100点満点で5兆点であることも強く訴えたい! エンディング曲もそれぞれで異なっており、違った“余韻”に浸れることでしょう。ぜひ、『クボ』は吹替版と字幕版の両方を観てみることをオススメします。
『クボ』は先ほども書いたように、古き良き日本に多大なリスペクトを捧げた作品です。侍の矜持といった価値観も示されており、それこそ『子連れ狼』や『七人の侍』のような、時代劇の面白さもあるのです。
劇中には「かわいい孫と祖父」という関係の村人もいますし、何より『バケモノの子』のような“(擬似的な)家族の物語”が主軸になっています。『クボ』を、お子さんと、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんで連れ立って観ると、それぞれで自分と似たような立場のキャラクターを見つけることができるでしょうし、きっと最高の思い出をつくることができるはずです。
映画ライター ヒナタカ氏