本作を2020年に公開することの意義について刀根はこう説明する。「今、顔の見えないネットの中では、罵詈雑言を言いたい放題という状況になっています。それに比べ、三島と東大全共闘は、非常に正々堂々と言葉の闘いを繰り広げている。現代の人に、まずその潔い姿勢を見てもらいたい。議論の中身も、様々な事象について、考えるきっかけを与えてくれます。とても良い一つの教材であると同時に、元気になるエナジードリンクのような素材だと思っています」
さらに、刀根は「受け取り方は人それぞれですし、見る人によって、見る日によっても違うと思います。毎日見ても、毎日違うことを感じるのではないでしょうか。世代によっても全く違うでしょうけれど、〝見なきゃ損する〟ということは、自信を持って言えます」と付け加える。
三島という存在を全く知らない若い世代にも見てほしいと、3人は口をそろえる。「もっと熱くなっていい、真剣に生きていいんだよと、背中を押すようなものになればいいですね。50年前に貴重なフィルムで撮りに行った先人たちを尊敬して、僕がそういう先輩になれるかどうかはわからないですが、せめて中継点にはなりたいと思いました」と刀根。
「過去で一番いろいろな三島が見られる作品になったと思います」と胸を張る大澤は、TBSのアーカイブ映像にも言及する。「街の中で火炎瓶を投げるなんて、今では全く考えられませんよね。それだけで衝撃的です。こういう時代が本当にあったというのを、映像で見られるというのも、アンダー40の人にはきっと楽しめるはずです」
豊島監督は、「この討論は、今を生きる自分たちにも関係のある話として届くといいなと願いながら作りました。と言うのも、当時の学生運動の映像を編集していて、現在の香港と同じことが起きていたのだなと。50年も時が隔たっているのに、なぜ同じことが起こり得るのか。逆に、なぜ日本は今そうなっていないのか。そんなことを検証するという意味でも、非常にタイムリーな作品になったと思います」と指摘する。さらに刀根は、「三島由紀夫というのは、やはりスーパースターだったのだと思います。この作品も、我々が彼に引き寄せられたのかもしれません。50年の節目に、三島に操られたのかもしれませんね」と感慨深げだ。
最後に平野が、こう締めくくる。「日本が生んだ最強の作家・三島由紀夫と知の巨人達との論戦はまるでアクション映画を観ているようにスリリングで手に汗握ります。この天才たちの饗宴は天才VS天才であるが故に時に難解ではありますが、理解するのではなく〝体感〟して頂ければ、最後に極上の感慨に浸ることも出来るかと思います」