「その少年はこの上なく美しかった。はかなげで・・・。それが映画を通しては、とにかく美しかった。
そのような子供は、とても気をつけてあげないとならないものよ。」
——マルガレータ・クランツ(映画『ベニスに死す』のスウェーデン人キャスティング担当者)
『世界で一番美しい少年』は美への強迫観念について、欲望と犠牲について、映画監督ルキノ・ヴィスコンティが彼こそ「世界一、美しい少年」だと宣言したとき、人生が一変した少年についての物語です。この少年は何者で、彼に何が起こったのか。これはある一人の人間の人生を破壊した映画についての物語であり、そして、家族の秘密の物語でもあり、真実を探す物語でもあります。
私たちは5年間、ビョルンの軌跡をたどってストックホルム、コペンハーゲン、パリ、ブダペスト、ベニス、東京で『世界で一番美しい少年』を撮影しました。また、彼の母親の死と父親の身元について真実を知るため、アーカイブ映像を調べ、親しい家族とのインタビューを重ねて彼と一緒に探りました。
数十年に渡って彼と接点のあった人々を探しましたが、50年という年月のために、見つけることが困難な人も当然いました。しかし、奇跡のように大半の人々に連絡が取れ、進んでカメラの前で語ってくれました。この過程を通して見つけた豊かなアーカイブ素材は、私たちにとって、作品を完成されるためには有意義なものでありました。
本作を完成するためには、お互いの信頼があり、そしてビョルン自身の勇気と自らのストーリーを語りたいという願いからきているのです。
私たちは単純な返事よりも興味深い問いかけを信じ、これは簡単な物語ではないことも理解しつつ、魅惑的なものとなっていることを心から願っているのです。そして、多くの層が重なった物語を伝えることで、ビョルン自身の複雑で深みのある人間性がさらに前に向かっていくことを信じているのです。
私たちは、他人によって作られたイメージ、アイコン、ファンタジーとなり、青年期の人生を奪われることになった一人の少年の物語に耳を傾ける機会を、観客の皆さんに届けることが出来ればと願っています。
2021年は『ベニスに死す』のワールド・プレミアで、映画監督のルキノ・ヴィスコンティがビョルン・アンドレセンを「世界で一番美しい少年」と高らかに宣言してから50年となる年です。その年に、あの少年が真の姿で帰ってきたのです。