ハワード監督がドキュメンタリーを撮り始めたのは近年だが、実話を扱う初心者ではない。『ビューティフル・マインド』、『アポロ13』、『ラッシュ/プライドと友情』と、それぞれ天才数学者、英雄的な宇宙飛行士、二人のF1ドライバーを描いた作品を監督している。そんなハワード監督を信頼したパヴァロッティの財団は、彼に自由に資料を使う権利を与えた。
ハワード監督はこう説明する。「私は常に自分は“権威”ではなく、何かを発見しようとする者だと考えている。今回は、パヴァロッティの途方もない芸術性はどこから生まれたのかを追求した。あの驚異の声だけではなく、心も関係していたはずだ。だから、パヴァロッティがどうやってそれを培ったのか、有名なアーティストになることで私生活を犠牲にすることにどう対処したのか、できる限りを知りたかった」
ハワード監督は、過去のテレビのトーク番組で行った数十本のインタビュー映像やニュース雑誌を徹底的に調べた。その後、2017年4月から2018年6月まで、ニューヨーク、ロサンゼルス、モントリオール、ロンドン、モデナ、ヴェローナにて全部で53回の新しいインタビューを行った。この一連の会話は、妻たち、家族、教え子、オペラ界とロック界の共演経験のあるパフォーマーはもちろん、マネージャー、プロモーター、マーケティング専門家にまで及んだ。
さらに、今まで日の目を見たことのなかったパヴァロッティの非常に個人的な映像が、家族や友人から提供された。これらは舞台裏のパヴァロッティがありのままの姿をさらしていて、ハワード監督は時折息を呑んだという。
貴重な映像の多くは、パヴァロッティが他界した時の妻で、モデナのパヴァロッティ博物館の館長でもある、ニコレッタ・マントヴァーニの個人的なコレクションだ。マントヴァーニは、「ルチアーノの物語を世界に伝えることが重要だと感じたのは、彼が最高の芸術家の一人だっただけではなく、素晴らしい心の持ち主だったから。それを分かち合うことは大切だと思ったの」と語る。
マントヴァーニは他にも重要な役割を果たしたと、製作のナイジェル・シンクレアは指摘する。「プラシド・ドミンゴやホセ・カレーラスにインタビューできるよう手伝ってくれただけでなく、彼の最初の妻アドゥア・ヴェローニと二人の間の3人の娘も紹介してくれた。彼女たちがインタビューを受けるのは初めてのことで、とても感動的な経験だった」