マイク・リー監督は意外なことに、「マンチェスターで育ったけれど、ピータールー事件のことはよく知らなかった」と語る。「初めてこの事件について書かれた本を読んだ時に、誰かが映画化するべきだと思ったね。でも、その“誰か”が、まさか自分になるなんて。当時、自分が史劇を作るなんて、想像すらできなかったからね」
リーはその気持ちが変わった理由を、こう説明する。「『ターナー、光に愛を求めて』を撮った後に、急に私がこの事件を手掛けるのも悪くないんじゃないかと考えたんだ。2019年に200周年を迎えるということで、なおさらそう思えた。この事件は、現代の世の中に蔓延する狂気や混乱に深くかかわっている。撮影現場でも毎日のように、『これは今の世の中に通じるものがある』と話していたね」
今までピータールー事件が映画化されなかった理由は、実はそこにあるのではないかとリーは推測する。「ピータールー事件について語る時、この事件が一体何を意味するのか、なぜ起きたのかという疑問は避けて通れない。それは、ある意味、危険なことなのかもしれない。現代の権力者にとってね」
マキシン・ピークが演じる労働者階級の母親が、未来に不安を抱くシーンがある。その後、何年もこの戦いが続くことを彼女は予見しているのだ。実際、200年後の今も同じ問題が残っている。「実は、あのシーンは非常に私的なものだった」とリーは打ち明ける。「我々は、撮影の直前にあのシーンを付け足した。私の初孫が生まれる1週間前に撮影したので、『2100年になった頃に、この子はどんな社会に生きているのだろう』と考えた。そして、『今の状況と、さほど変わらないだろう』という結論に至ったわけだ」