リーは独自の演出方法で知られている。リハーサルで即興劇を行い、その時に俳優たちが感じたことを、演技に盛り込んでいくのだ。本作のような実際に起きた歴史的出来事の映画化では、どのようなアプローチをとったのか、リーはこう説明する。「頭がいっぱいになるまで歴史本を読めば、この事件について学ぶことはできるが、そういった“知識”はカメラの前では役に立たない。これらの知識に、息を吹き込まなければ意味が無い。すべてが“真実”であると感じられなければならないし、そのためには登場人物が有機的で三次元的でなければならない」
たとえば、ヘンリー・ハントの演説のシーンについて、リーは「歴史的資料を基に演説を再構築し、膨大なキャラクター研究を通して、この演説に息を吹き込んだ」と説明する。さらに、「個人的に非常に興味深いと感じたのは、当時、最も印象深い演説を行っていた若い労働階級の急進派のほとんどが、独学か日曜学校で読み書きを学んでいたという事実だ。明確な意見を持ち、教養があっただけでなく、時に古典から引用したりもしていた。彼らは教育に飢えていたので、容易に学べるのにもかかわらず、その機会を十分に活用していない現代の子供たちの状況を知ったら、ショックを受けるだろうね。事件に居合わせた人々がタイムマシーンに乗って現代を訪れ、参政権があるのにもかかわらず投票しない人がいることを知ったら、嫌悪感を抱くに違いない。そのために命を落とした者もいるのだからね」と指摘する。