美術史から消された
18世紀の女性画家たち

美術史から消された
18世紀の女性画家たち

現代を舞台に、子供時代や思春期の少女の揺れる心を描いてきたセリーヌ・シアマ監督。そんな彼女が最新作では、大人の女性の愛と葛藤に迫った。舞台は18世紀で、主人公は女性画家。シアマ監督は、「現代の問題にフォーカスしてきた私が、なぜそれほど時を遡ったのかと聞かれますが、18世紀末は今日から見ても、非常に話題性のある時代です」と説明する。彼女が注目したのは、自分と同じ“ 女性アーティスト” たちだ。リサーチしていく中で、当時、肖像画が流行したことで、多くの女性が絵を描くことを職業としたことがわかる。
それまでシアマ監督は、名声を手にした画家しか知らなかった。マリー・アントワネットの親友で、彼女の肖像画を描いたエリザベート・ヴィジェ=ルブランや、親交の深いゲーテの肖像画を描いたアンゲリカ・カウフマンなどだ。だが、実際は100名ほどの女性画家が成功をおさめ、その作品の多くは有名美術館の所蔵品となっているものの、歴史に書き手の名は残っていない。シアマ監督は、「美術史が女性を見えざる存在にしてきたのです。この忘れ去られた女性画家たちの作品を発見した時、とても興奮しましたが、同時に悲しみも感じました。完全なる匿名性を運命づけられた作品に対する悲しみです。彼女たちの作品に、私の人生に欠けていたものを見つけ、心がかき乱され、深い感動を覚えました」と語る。
そんな経緯から、シアマ監督は女性画家を主人公に据えるが、実在した画家ではなく、空想の人物を作り上げることを選んだ。登場人物を生み出すことを通じて、その時代を生きた、すべての女性に思いを巡らせることができるからだ。最終的にこの時代の画家を専門とする美術社会学者に歴史コンサルタントを依頼し、マリアンヌを1770年の画家としてふさわしい女性に仕立て上げた。