いつまでも心に響く追憶の曲
いつまでも心に響く追憶の曲
本作では音楽は2曲しか使われていない。それも劇伴ではなく、登場人物たちが実際に歌い奏でる音楽だ。まず登場するのは、ヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」。マリアンヌが自分の「好きな曲」だと、ほんの一節をエロイーズに弾いてみせ、二人の心が初めて接近する。そして、その思い出の曲がラストシーンで、圧巻のオーケストラによって奏でられる。愛のささやかな芽生えと壮大な喪失が、鮮やかな対比で演出される。
もう1曲は、夜の焚火のシーンで、集まった女性たちが合唱する歌曲「LaJeune Fille en Feu」。18世紀にふさわしい曲を探したが、求めるものが見つからず、『水の中のつぼみ』や『トムボーイ』も手がけたエレクトロニックミュージックのプロデューサー、パラ・ワンを中心にオリジナルで作られた。一度聴けば耳に残る、非常に印象深い歌詞は、シアマ監督がニーチェの詩から引用した歌詞を、ラテン語で書き起こした。
この2曲を3つのシーンだけで使った理由を、シアマ監督は「脚本を書いている時から、音楽なしで作ることを考えていました。基本的には、当時を忠実に再現したかったからです。彼女たちの人生において、音楽は求めながらも遠い存在でしたし、その感覚を観客にも共有してほしかった」と語る。そのためには、シーンのリズムと配置をよく検討しなければならなかった。二人の関係を、体の動きやカメラワークなど、音楽以外のもので表現することになるからだ。「特にこの映画は、ほとんどがワンショットで構成されているため、演出には細心の注意を払いました」とシアマ監督は振り返る。
最後にシアマ監督は、愛の美しさと共に、この映画で伝えたかったもう一つのテーマについて語る。「美術や文学や音楽などのアートこそが、私たちの感情を完全に解放してくれることを描きました」