2023.06.19 POSTED

クィア・パルム賞授賞式での、審査員長ジョン・キャメロン・ミッチェルと是枝監督のスピーチ全文

2023/5/19

<授賞式前のアナウンス>
私たちは、審査員満場一致で是枝監督の『怪物』にクィア・パルム賞を授与することを決定しました。私たちは皆、本作に信じられないほど感動させられましたし(個人的には是枝監督のベストだと思っています)、この美しく構成された、「男の子」として期待される姿に適合できない2人の子供の物語は、クィアな人たち、そして型にはめられることに馴染めず、また馴染むことを拒否するすべての人たちにとって、力強い慰めになることでしょう。この映画はきっと命を救うでしょう。
だから私たちは、金曜日の夜に時間を見つけて、感謝に満ちたはみ出し者集団からこの賞を受け取ってくれることを願っています。あなたがたにキスを! ジョン

we contacted le pacte about the fact that my Queer Palme Jury unanimously voted to award our prize to Mr Kore-eda for Monster. We were all incredibly moved by the film (i think it’s his best) and the beautifully structured story of these two children who cannot conform to what is expected of them as boys will be a powerful comfort to queer people and anyone who is cannot and even refused to “fit in”. This film will save lives. So we hope he might find time on friday night to accept the award from a grateful group of misfits. Kisses to you and him!  John

 

<授賞式でのスピーチ>
私たちはクィア・パルムの審査員であり、あなたでもあります。私たちはホテル・ドゥ・キャップ(カンヌ近郊の高級ホテル)やリムジンに身を隠したりしません。(カトリーヌ・)ドヌーヴに会うことも、市長とディナーをすることもありません。私たちはパンクな審査員であり、誇り高く、許されない存在です。私たちは共に集まり、自分たちで楽しみを作りだすのです。10日間で12本の映画を観ました。そこから1本を選ぶのは大変な作業でしたが、ある作品が満場一致で選ばれました。
上映後、最後に劇場に残されたのは私たち5人でした。私たちは、それぞれの違いを取り去られ、剥き出しにされた気分でした。 私たちは一人の人間になったのです。素晴らしい映画とは、そうあるべきではないでしょうか?
私たちが見た映画は、形式と構造のマスタークラスでしたが、その時々のいわゆる偉大な映画監督とは違って、決して「あなたの監督である私を見よ。私はあなたより優れている」とは語り掛けてきませんでした。この監督は私たちの仲間です。この映画は、異質な者、馴染めない者の周りに亡霊のように群がる孤独、痛み、恐れを捉えています。そして、それ以上に重要なのは、誠実さ、優しさ、許しという奇跡的な行いによって、硬直した社会構造により課せられた苦しみから登場人物たちが解放されていくということです。
この嵐のような物語の中心にいるのは、他の男の子と同じようには振る舞えない、とても繊細だけれども信じられないほど強い2人の男の子です。彼らはお互いを見つけ、貴重な時間を過ごし、それは生きていくのに十分なことなのかもしれません。
適合することができず、また適合することを望まない私たちクィアな人間は、この映画に敬意を表します。なぜならこの映画の制作者は、アウトサイダーはシャーマンであり、アウトサイダーは社会の進化と生存に不可欠な秘密を知っていることを理解しているからです。そして、アウトサイダーが伝えることのできる最大の知識は「共感」です。
繊細な詩、深い思いやり、そして見事なテクニックで、登場人物の経験のあらゆる面に敬意を表した是枝裕和監督の『怪物』に、クィア・パルム賞を授与します。

We are the Queer Jury and we are you. We don’t hide in the Hotel du Cap or in Limousines. We don’t meet Deneuve, we don’t have dinner with the Mayor. We’re the punk jury, proud loud and not allowed. We party together and we make our own fun. Between the fun we saw 12 films in 10 days and picking just one was a hard task. But one film became our unanimous choice.
After it screened, the last people in the theater were the five of us. We felt stripped, stripped of our differences. We became a single person. Isn’t that what a great film should do?
The film we saw is a masterclass of form and structure but unlike the so-called great filmmakers of the moment, this filmmaker never says look at me, your director: I am better than you. This director is one of us. This film captured the loneliness, hurt and fear that cluster like ghosts around those who are different, those who don’t fit in. But more importantly, it showed us miraculous acts of honesty, kindness and forgiveness that allow its characters to begin to free themselves from the suffering imposed by a rigid social structure.
At the center of this cyclonic story are two very delicate but incredibly strong little boys who cannot and will not behave like other boys. They find each other, which for the precious time being, may be enough for them to live.
We as queer people who cannot and do not wish to conform, honor this film because its maker understands that the outsider is a shaman, the outsider possesses secret knowledge that is vital to the evolution and survival of our society. And the greatest knowledge the outsider can pass on is empathy.
For honoring every facet of your characters’ experiences with such delicate poetry, profound compassion and magnificent technique - we award the Queer Palme to Kore-eda Hirokazu for Monster.

 

<授賞式、是枝監督受賞スピーチ>
ありがとうございます。まずこの作品を満場一致で選んで頂いたジョン・キャメロン・ミッチェルさん、審査員の皆様、ありがとうございます。そしてこの喜びをここで分かち合って頂いている皆様にもお礼申し上げます。ありがとうございます。
(ジョン・キャメロン・ミッチェルさんが)お話してくださった映画紹介の中に、この映画を通して僕が描きたかったことが全て語られていて、ここで僕が何か言葉を重ねることは何も必要ないような気がしています。
僕がこの映画のプロットを手にしたのは4年半ほど前なのですが、その瞬間からこの主人公2人の少年が抱えている葛藤とどういう風に、それを演じる少年と同じように、作り手であるプロデューサー、監督、脚本家がその葛藤と向き合うべきなのか、どうしたら向き合えるのかを、とてもとても時間をかけてやってきました。
様々な偏見や心無い言葉によって、二人は自分の中に怪物を見てしまい、また生まれ変わりを望んでしまいますが、
映画が着地するゴールは、むしろ彼らを追い詰めてくる世界の側に怪物が居て、生まれ変わるべきなのは世界の側だと、その世界から二人が自分たちの幸せをつかんで飛び出すのだという、そういうゴールだけは見失わないように、この映画を作りました。
映画がすべてを語っていると思うので、監督がここでなにかをいうのは、おまけのような、いらない蛇足なのですが、本当に、この映画を愛していただいて感謝いたします。ありがとうございました。

 

★クィア・パルム賞
カンヌ国際映画祭の独立賞のひとつで、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる賞。
2010年に創設され、第63回カンヌ国際映画祭から授与されています。公式部門とは別に独立した審査員が組織され、映画監督や俳優、ジャーナリストや大学教授、各国のクィア映画祭のプロデューサーなど、毎年5~8人が審査員となる。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門、国際批評家週間、監督週間、ある視点部門に出品されたすべての作品が対象となり、日本映画としては初の受賞。

★ジョン・キャメロン・ミッチェル (映画監督、脚本家、俳優、プロデューサー)
1963年、アメリカ、テキサス州生まれ。
原作戯曲・主演を務めた舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」が、1997年にオフ・ブロードウェイで初上演されるや大ブームを巻き起こしてロングランを記録、オビー賞、ドラマ・リーグ賞など数々の賞を受賞する。2001年、同舞台を脚本・監督・主演を務めて自ら映画化。批評家からの評価も高く、ゴールデン・グローブ賞、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされ、サンダンス映画祭観客賞と監督賞をW受賞という快挙を成し遂げる。2014年、舞台はリバイバル作品としてブロードウェイに進出、トニー賞4部門に輝く。続く2015年には、ミッチェルが再び主演を飾り、トニー賞名誉賞を受賞。
その他の監督作品は、『ショートバス』(06)、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされた、ニコール・キッドマン主演の『ラビット・ホール』(10)、『パーティで女の子に話しかけるには』(17)、TVシリーズ「ナース・ジャッキー5」(13)、Netflix「サンドマン」(22)など。アニメ「ユーリ!!! on ICE」のヴィクトルのモデルとなったことでも話題。