2024.03.07 POSTED

【3月1日初日舞台挨拶レポート】

この日を待ちわびた約500名を超える観客の温かい拍手に迎えられた杉咲は、初日を迎えた心境を「感慨深いです。本当に、今日まで長い道のりでした。1年半くらい前に成島監督と初めてお会いして、そこからゆっくりと時間をかけて、たくさんの方たちが集まり始めて、議論を重ねながら作っていきました。骨の折れる日々でしたが、それだけみんなが真剣な現場で、そんな現場に関われることが、本当に幸せなことだなと思いながら、作品を紡いできました。この日を迎えられて、少しだけホッとしております」としみじみと語る。

志尊は「大袈裟な言葉になってしまいますが、命を懸けて向き合わないとできない作品でした」と述懐。撮影の日々だけでなく、宣伝活動でも「(作品の内容を)どう説明していいのか…?というのはありました」と苦悩をにじませつつ「杉咲花をはじめ、みんなでぶつかって、時には苦しい思いもして作った作品なので、こうしてたくさんの人に観ていただけることが何よりの救いだなと思います」と言葉に力を込める。

クランクイン前には、準備のためのリハーサルの時間が長く取られたが、宮沢は「クランクイン前にみなさんとシーンへの向き合い方、感情の作り方を準備できたからこそ、撮影当日にすっとシーンに入り込めた気がします」と語る。
志尊は、このリハーサルで印象深かったことについて「居酒屋に行くシーンで、店に入るところからやってみようとなって、店に入って座ったら成島監督が『ちょっと待って。何でここに座ったの?』という話から『じゃあ、どこに座るんだろう?』、『貴瑚はこういう状態で、安吾はこういう状態で、美晴はこういう状態で…じゃあ、どこに座る?』と。あぁ、そうだよな。ものづくりってそういうところから作っていくべきだよな、と身が引き締まる思いで、緊張感をもってリハーサルをやれたのは貴重な経験だったと思います」と充実した表情で語った。

小野も成島組ならではの経験として「成島監督から、役一人一人の人生表があったんです、血液型は何型で、どこで生まれて、何歳でどういうことがあって、それが役のコアな部分になって…というのをひとりひとりに配ってくださるんです。それを元に貴瑚と美晴が出会うシーンや、何年も前の学生時代をふり返りながら、積み重ねていくのは成島組ならではのことで、新鮮でしたし、『大事だよなぁ、こういうの…』と噛みしめながら過ごしていました」と明かした。

小野は、以前から原作小説の大ファンであり、杉咲とも以前から親友ということで今回、杉咲が主演を務める本作で、貴瑚の親友の美晴役のオファーが来たことについて「本当にびっくりしました。たくさんの人に読んでほしいと思った原作でしたし、それが10年以上も前から知っている杉咲花が主演で、こんなに素晴らしいキャストのみなさまがいて、まさか自分がその一員になれると思っていなくて…。幸福だなと思うと同時に、この原作の素晴らしさを保ちつつ、映像化するにあたって新たな魅力が加わる、その一部になれるように頑張らなきゃと身が引き締まる思いでした」と喜びと覚悟を口にする。

杉咲も「本当にご縁を感じました。(小野とは)友だちとして過ごしてきた時間のほうがはるかに長かったですし、いつか花梨(小野)と深く交わるような役で共演したいという目標があったんですけど、花梨におすすめの本としてこの『52ヘルツのクジラたち』を紹介してもらって、購入したくらいのタイミングでオファーをいただいて、花梨の元に美晴役のオファーがあって、こんなめぐりあわせってあるんだなと」と笑顔で語る。

桑名は、本作が映画初出演となったが「現場でみなさんがすごく優しくしてくれて、現場に行くのが毎回楽しかったです。しゃべることができない役だったので、表情やしぐさで気持ちを伝えるのが難しかったです」と撮影の日々をふり返った。

杉咲と桑名は、2人の距離を縮めるために、ある取り決めをしたとのこと。杉咲は「大分に行った日に『ルールをつくろう』って話を2人でして、桃李は『思ったことをなんでも言いたい』と言ってくれました。『良かったら敬語をやめて“花”って呼んでいいよ』と言ったんですが『それはちょっとできないです』って言われて(笑)。でも、撮影の日々を紡いでいく中で桃李が『花って呼んでいい?』と聞いてくれた日があって、気づいたら敬語も外れていて、一緒に過ごしてきた時間が心を解放してくれたかと思うと本当に嬉しかったです」と嬉しそうに明かしてくれた。

成島監督は、貴瑚の住む家のロケーションについて「これもすごい偶然で、映画の神様の導きなんですが、シナリオハンティングで大分に行った時、大分のスタッフが原作と脚本を読んで『貴瑚の家はこんな感じじゃないですか?』というのが、ドンピシャでした。『どうぞ』と家に上がって『あの向こうに7年くらい前に迷いクジラが来たんです』というのを聞いて、予算削減で、近場の伊豆とか千葉で撮るとかということがよくあるんですけど(笑)、『これはもう逃げられない』と思って『大分に行かせてください』とお願いしました」と大分ロケが実現するに至った経緯を明かした。

杉咲は、成島監督の現場について、ウォーミングアップの一環で監督から「目をつぶって後ろに倒れてください」、「まっすぐ前に歩いてください。その先には絶対に人がいて、支えてくれるから」と言われたことを明かし「私はすくんで真っ直ぐ歩けなかったんですけど、そんなことを思い出して、成島組の時間は、成島監督が用意した大きな暗闇に向かっていく時間で、その先には絶対に誰かが待っていてくれて、共に歩んでいくことができるんだと感じた日々でした」と成島監督への敬意を口にする。

宮沢は、年齢の近い共演陣について「本当にこの作品への思い、熱量はすごいもの感じました。本読みやリハーサルの段階から『この作品をより良くするためにどうすればいいんだろう?』と試行錯誤していて、僕もみなさんを見ていて自然と『高みを目指さないと』とモチベーションを上げていった瞬間がたくさんありました」と感謝の思いを語る。

志尊は「安吾という役は、常に誰かに寄り添い、見守る役だったので、花ちゃんと花梨ちゃんがいろんなことに悩んだり、葛藤してる時は、いつでも手を差し伸べられる人でありたいと思っていました。2人を見つめることしかできなかったですけど…」と現場でのスタンスをふり返りつつ、初共演となった小野について「すごく礼儀正しくて、女優として素晴らしいのは知ってたけど、メチャクチャ僕のことをいじってきました(笑)」と突然の暴露!小野は「こんなに“志尊淳”って看板がある前で言う…?」と苦笑を浮かべつつ、現場で志尊に対しては「志尊さん」と呼びつつ、裏で「そんじゅん」と呼んでいたことを告白。そして「ある日、間違えて『そんさん』って呼んじゃって(笑)、『誰?』ってなって、『裏で“そんじゅん”って呼んでるんです』と言ったら『いいよ』と言ってくださって…。温かい方です」と語り、詰めかけた報道陣に「バレちゃいましたね…。書かないでください」とお願いし、会場は笑いに包まれていた。

そして、舞台挨拶の終盤には、3月5日に誕生日を迎える志尊をサプライズで祝福!クジラの乗ったケーキが運び込まれ、杉咲から花束が手渡された。志尊は特製のケーキを嬉しそうに見て「手作業で作っていただいたので、最後まで一人で食べたいと思います。どんな味がするか楽しみです」とニッコリ。そして「20代最後の年になるんですが、そのスタートがこの作品で、一緒に迎えることができるのが嬉しいですし、これから迎える30代を絶対に後押ししてくれる作品になると思っているので、ここでみなさんに祝っていただけて、嬉しいです。ありがとうございます」と抱負と感謝を口にした。

最後に登壇陣を代表してマイクを握った杉咲は「私たちは、この映画を撮り終えて、完成したことに対して、清々しくやり切ったと手放しで思ってはいません。きっと議論が起こると想像していますし、そのみなさまの声を真摯に受け止めていきたいという気持ちを持っています。ただ、私はこの作品が、時代の中で乗り越えられていく作品になってほしいと思っていて、将来、この作品を見返した時、『まだ、こういう悲劇が描かれていた時代があったのか』と人々に思われてほしいし、そのためにこの作品は作られたのではないかと信じています。人の痛みを全てわかることは、たぶんできなくて、でも、『わからない』ってことは、無力ではないと思っています。わからないから、その人のことを『知りたい』と思えるし、『優しくしよう』と思えるんじゃないかと思います。共感できなくても、隣にいられるし、大切なものを分け合えたりできるし、だからこそ『どうか、あきらめないで人と関わろうとしてほしい』というこの作品のメッセージを大切に、受け止めたいと思っています。責任をもって今日はみなさまに届けに来ました。劇場を出た後、みなさんにとってほんの一瞬でも光を感じられるような作品になっていたら嬉しいです。今日は見に来てくださってありがとうございました」と真摯に語り掛け、会場は割れんばかりの温かい拍手に包まれた。