この度、『パルテノペ ナポリの宝石』Fan's voice最速試写会を実施!
翻訳家・ライターで本作の字幕翻訳も担当した岡本太郎さんに登壇いただき、映画の舞台であるナポリやパオロ・ソレンティーノ監督、キャストたちについて、たっぷり語っていただきました。
まず映画のタイトルにもなっている“パルテノペ”という名前について、岡本は「タイトルのつづりが“PARTHENOPEと”H“が入っているところが、ギリシャ由来であるということですね。イタリア語だと”H“が入らないのです」とギリシャ神話に由来する名前であると言及した。さらに「ただ、イタリア人にしてみれば“パルテノペ”というのは普通、人の名前に使う名詞ではないんです。ナポリの街を指すのがメジャーなので、女性の名前としてはめずらしいんですよ。こういうところがさすがソレンティーノ監督ですよね」とソレンティーノ監督のお茶目さを明かす。
また、本作のパルテノペの女性像について「今までソレンティーノ監督の作品で女性の主人公はいなかったですし、登場する女性の人物像もパルテノペと全く違うタイプでした。それこそ男性目線的な、男性が主体の物語に、男性を魅了したり誘惑する立ち位置として美しくてゴージャスな女性が多く登場してきました。本作でも、パルテノぺが海から上がってくるシーンでは、ギリシャ神話をオマージュしたようで人魚やヴィーナスの誕生を想起させる美しさがありますが、パルテノぺ自身はその美しさに無頓着でつかみどころのないミステリアスな人物として描かれます。パルテノペの若いころを演じたセレステ・ダッラ・ポルタも、老年を演じたイタリアの往年の名女優ステファニア・サンドレッリも、美しくありつつ無邪気な一面があるところが似ていますよね。一方でソレンティーノ監督の描く主人公像には共通点もあります。それは、今までの作品でローマ教皇や首相などすべてを兼ね備えた権力者を主人公に据えてきましたが、本作のパルテノペもまた美しさと優秀な知性を兼ね備えたトップの人物として描かれていることです」と岡本も過去の作品と比べつつ、パルテノペの美しさを重視した物語ではないと共感する。
さらに作中でゲイリー・オールドマンが演じる実在のアメリカ人作家ジョン・チーヴァーの登場について、岡本は「昨年公開されたイタリア映画『チネチッタで会いましょう』にもジョン・チーヴァーが出てきて、その理由をナンニ・モレッティ監督に聞いてみたのですが、イタリア人にとって特別思い入れがあるわけではなく、J・D・サリンジャーの方が有名だそうです(笑)ジョン・チーヴァーの登場は、実際に彼がイタリアに居たからというだけではなく、ソレンティーノ監督の、男性である自分から見た女性観が込められているのではと思います。彼のセリフには、自身の男性的な“醜い”一面からくる美しいものに対するコンプレックスが含まれているんですね。」と話した。
ソレンティーノ監督にとってのナポリについて聞かれた岡本は「ソレンティーノ監督はパルテノペと同じようにナポリで生まれ育ちましたが、なじめずにいたと話しています。本作で描かれるナポリは、自然と街の美しさや人間の醜さが描かれており両極端のコントラストが印象的です。グレタ・クールによるナポリをこき下ろす演説やサン・ジェンナーロ教会の騒ぎのシーンなどは、イタリア映画の中でもナポリならではの出来事だと思います。貧しい育ちのグレタ・クールがナポリに戻ってきたり、パルテノペが最後にナポリに帰ってきて自身とナポリを重ねていますよね。ナポリ人はイタリアの中でも、ナポリに対して愛憎に近い強いしがらみや感情を持っているのです」と一筋縄ではいかない心情に想いを馳せた。そして「ナポリへのトラウマと対峙した作品だったのかはわかりませんが、自伝的な思いはあると思います。ソレンティーノ監督の作品にはトラウマにあたる出来事が必ずあります。本作ではパルテノペの兄の死がそれです。また何より彼は高い美意識を持っていますよね。ナポリの海を力強く美しく映像に収める一方で、ギャングのボスと街を歩く場面でも、貧しい地区にも関わらず美しく撮られている。どうしても審美的な撮り方をしてしまうところと、物語の中にあるトラウマがコントラストになっているのが魅力のひとつだと感じます」と続けた。
またソレンティーノ監督がフェデリコ・フェリーニ監督に強く影響を受けているように感じるという声に対し、「2人とも映像が特徴的で美しいですが、大きな違いもあります。フェリーニ監督は、好奇心が強く、彼自身の世界観・人生観を作り上げつつも、万人に開かれています。また美しさを追求することよりも、自身の映像で遊んでいるような部分があります。一方でソレンティーノ監督はその逆で、基本的に自分の内側の世界を描き出しています。そして審美的な映像を突き詰めているところが特徴的です」と映像の美的感覚の違いに着目した。
最後に「この映画は一度観ただけで理解するのは難しいと思いますので、ぜひ色々調べたり、監督の他の作品と見比べてみたりするとまた違った味わいが出てくると思います。個人的にすごく好きなシーンは、パルテノペがカヌーをこいでナポリの街をめぐっているミュージックビデオのようなシーン。すごくナポリっぽい景色ですし、音楽も素晴らしくて、ソレンティーノ監督の愛情を強く感じました」と笑顔で締めくくり、温かな拍手でイベントは終了した。