2017.10.03 POSTED

是枝裕和監督にご登壇頂き『三度目の殺人』ティーチインイベントを実施いたしました!

是枝監督作品恒例のティーチインイベントということもあり、会場には本作独特のモヤモヤを少しでも晴らそうと、大勢のファンが大集結!会場には本作を4回も観たというツワモノたちが集まり、たくさんの手が挙がりました。映画の隅々までチェックしたファンが鋭い質問を続々と投げかけ、監督も「こんなところまで観られているなんて怖いなぁ(笑)」と驚く場面も。さらに、日本人だけでなく海外から来た観客からも質問が飛び出し、監督も落ち着いた様子で丁寧に質問に応え、大盛り上がりのイベントとなりました。

会場の皆さんから寄せられた質問、全問公開のイベントリポートを是非お楽しみください!

Q:根岸季衣さんが演じるアパートの大家さんのシーンは、監督らしいドキュメンタリータッチを感じましたが、彼女のセリフはアドリブですか?また、接見室で三隅が火傷の跡をいじるシーンが好きなのですが、監督のアイデアでしょうか?

是枝監督:裁判では、公判が始まる前に、三者で公判前整理手続きというものをやるんです。脚本を書くときに、弁護士さんに相談していたら、「日本の裁判はつまらない。公判前に証拠などを見せ合うから、始まる前にほぼ終わっているんですよ。」と言われました。国会で事前に質問を渡しておくのと同じことなんですね。それは映画で観れることはなかなかないし、ドキュメンタリーでも撮れないので、実際に弁護士さんにやってもらってシーンに残しました。僕も今回の撮影で初めて知って、面白いけど、怖いなって感じました。こうやって人が裁かれていく、その力が持つ怖さと知っていただければと思いました。
僕もあの(三隅のアパートのおばさんの)シーンは大好きです。セリフは全部書いていましたね。(三隅の)傷をむしって、なめるというのも台本に書いていました。でも、実際に役所さんがあの場でやっているのを見たら、台本を書いた時よりずっとゾッとしました。役所さんはご自身のなかで役をたくさん膨らましてくださっていたので、あの役を自分で書いたとは思えませんでしたね。


Q:この映画のエキストラに参加しました。当時はタイトルに(仮)がついていましたが、どのような経緯で決定したのですか?

是枝監督:最初の企画でつけていたタイトルには(仮)をつけていて、もっといいものがあるんじゃないかとスタッフたちとも話していました。『そして父になる』のときは何度も変更がありましたから。でも、脚本を書く時に”一度目は獣、二度目はにんげんが殺した。三度目の殺人”というテーマを目指していたので、ブレることなく、このタイトルに決定しました。


Q:阿部寛さんが主演の『歩いても 歩いても』や『海よりもまだ深く』は、父親と母親の両方が出てくると思いますが、福山雅治さんが主演の本作や『そして父になる』では母親は出てこなくて、冷めた父親が出てきます。主演が阿部さんであったり、福山さんであるときに意識しているのでしょうか?

是枝監督:厳密にルール化はしていないので、たまたまですね。今回の話は、3組の父親と娘の話。弁護士と殺人犯と被害者、それぞれに”父親と娘の関係がうまくいっていない”という共通点を太く作っておきました。あの主人公(重盛)を肉付けしていくときに、母親より、父親かなと思って、父親にしましたね。こんなところまで観られているなんて怖いなぁ(笑)



Q:この映画は、”十字”っていうテーマであちこちに出てくるなと思いました。雪の上で寝転んでいるシーンでは三隅と咲江は十字で寝ているのに、福山は大の字。ほかにも、お墓の十字、最後の重盛が見上げた電線、重盛が立っている道路も十字です。雪のシーンのふたりだけが十字っていうのは、狙いがあったのでしょうか…?

是枝監督:北海道の留萌に十字街っていう場所があって、バスのシーンでは実は十字街行きのバスに乗せてたんですよ。それが見えるところはカットしちゃったんですが…。(質問者が)そういう風に意味があるように感じるということは、きっと、主人公もそう思ったんじゃないかな。そして、咲江も自分が何らかの加担をしていると、彼女自身が考えたんじゃないでしょうか。被害者じゃなくて、加害者意識を持つということが大事だと思っていましたから。そういう設定は考えていましたので、意識的に散りばめましたね。でも”十字”は劇中にまだあるんですよ。


Q:海外から来ました。初のサスペンス映画ということで、以前の映画と全く違う雰囲気で撮られていましたが、今後サスペンス撮りたいですか?海外には是枝監督のファンが沢山いますが、海外のマーケティングを意識して撮りたい映画はありますか?

是枝監督:本作は通常のサスペンスにしては、犯人がはっきりしないから、カタルシスが生まれて終わるわけではないのでモヤモヤしますよね。霧が晴れるかと思えば、晴れないで終わるので、厳密にいうとサスペンスではないかなと自分では思っています。でも、カメラワークや美術、セットなどを含めて、ある種の犯罪映画という形を目指しながら撮った作品ではあります。僕としても珍しいアプローチだったなと思いますね。とても勉強になりましたし、面白かったけど、今後も撮るかなと思うとそうではないですね。今後もいろんなものを撮りたいと思っています。
日本の国内ではない、いろんなところで僕の映画を観続けているファンがいるのはとても有難いので、(映画を作っているときは)いろんな国の人たちの顔が浮かぶ、そこにどう届くのかなって言う意識はしています。より多くの人たちに届くといいなって思いながら作っています。


Q:是枝監督が作品を作るときに一番大切にしていることはなんですか?

是枝監督:自分が楽しいと思うことはいいんじゃないかな。楽しいと思ったものは、人に伝えたくなるじゃない。だから、最初はそれでいいと思います。映画館で、これは誰が作りたくて作ったんだろうって思うような映画はあんまり好きじゃないですね。監督とか、俳優とか、誰かが作りたいと思ったものは、強い想いがあることは伝わってきますよね。そういう強度がある作品を僕は作りたいと思っています。


Q:映画の最初、役所さんと福山さんの距離が凄くあると思っていたら、ふたりの出身が北海道とか、ふたりとも娘がいるとか、生き物が好きだとか、甘党だとか、共通点が沢山ありました。監督はどれくらいの要素をいれて、ふたりの距離を縮めていこうとしたのでしょうか?

是枝監督:全部で7回ある接見室シーンでは、ふたりの距離を少しずつ変えていきましたね。3回目のふたりがガラス越しに手を合わせるシーンで、弁護士と依頼者の関係が崩れていくプロセスを辿ろうとしたんですが、お互いに故郷が同じで、”雪景色という原風景を共有していること”、”会うことが出来ない娘がいること”のふたつの共通点をとっかかりにして、人間としての距離を詰めていきました。そこからは、自分が話した言葉が相手から出てくるとか、見透かされているというか。観察しているつもりなのに、観察されていて、主導権がいつのまにか奪われていく、境界線が曖昧になっていくプロセスを5回目か6回目に作っていきましたね。


Q:是枝監督はご家族に映画をご覧なられて感想聞かれたりとか、家族の意見を映画のヒントにしますか?

是枝監督:まだ子どもが小さいので、僕の映画は観ていないかな。でも映画の話はしますし、相談もしますね。でも自分の映画の話はあまりしないです。『歩いても 歩いても』や『海よりもまだ深く』は、僕の父親と母親の姿を思い出したところが多いです。『海街diary』は原作が素晴らしいので、そこからもらっているものと、四姉妹や三姉妹の方を取材させていただいて、家のシェアの仕方やお風呂の順番など聞いて、埋めていきましたね。
あと、僕は観察することが好きなので、ファミレスで隣に座っている家族の断片的な会話からを聞いて、どんな家族なんだろうって勝手に想像を膨らますようなことをします。いい訓練になるんですよ(笑)



最後に是枝監督より、「皆さん、何度も観ていただき、ありがとうございます。すっきりはしないかもしれませんが、それが狙いだと言い続けている映画です。僕にとって、「あれはどうだったんだろう」と話し合うことは、映画を観る体験で大好きな時間ですから、それも含めて楽しんでいただけたら嬉しいです。そろそろこの映画に決着をつけて、次の作品へ向かっていきたいところですが、まだまだ日本だけじゃなく海外にも広がっていくといいなと思っています。」とのご挨拶があり、和やかな雰囲気でイベントは終了しました。

『三度目の殺人』は全国で絶賛公開中です!