当代きっての名優二人に
大胆なオファー
ヴァンサン・カッセルにステファンをモデルにしたブリュノ役、レダ・カテブにダーウドをモデルにしたマリク役を依頼した理由を、トレダノは「ヴァンサンは、その人物になりきって身振りや体つきまでも“盗む”という姿勢で臨む。僕らは彼のその“変幻自在”の才能を本当に素晴らしいと思っている。レダは繊細かつリアルな演技ができるカリスマだ。本作を成功させるためには、二人のエネルギーが必要だった」と説明する。
ナカシュは、「僕らは大胆な賭けに出ることにした。彼らと別々にミーティングを行って、『作品に対するアイデアはあるが、脚本は用意していない。僕らと一緒に「Le Silence des Justes」か「Le Relais IDF」のどちらかの団体と2時間過ごしてほしい。それが無理なら、この映画の話はなしだ』と持ち掛けた。僕たちのやり方は間違っていなかった。彼らは来てくれて、その日の夕方には二人からほぼ同じ内容のメッセージが送られてきた。『脚本はなくて大丈夫。このまま一緒に冒険を続けよう』とね」と振り返る。
カッセルは団体を訪れた時のことを、「やや困惑したけれど、同時に完全に圧倒された。気づいたら涙を流していたから驚いたよ。ステファンやスタッフを観察していて分かったのだけれど、彼らは献身的で、自閉症の人たちの生活の向上だけを考えている。しかも理性的かつ行動的だ」と語る。カテブも、「すぐに心を奪われた。とても感動したね。アドベンチャーにあふれた豊かな世界を発見した」と回想する。