自閉症の子供たちと
全くの素人の起用

撮影が始まるまでの準備期間の2年間、トレダノとナカシュは「Le Silence des Justes」と「Le Relais IDF」を深くリサーチした。そして二人は、作品に本物の介護者と自閉症の若者たちを登場させようと考える。「実在の人物とフィクションを絶えず行ったり来たりして融合することで、登場人物や彼らの日常、個人的な問題に寄り添い、身近に感じることができると気づいたんだ」とナカシュは説明する。
パリのすべての団体をしらみつぶしに探した結果、自閉症など他人とのコミュニケーションに問題を抱える人々を雇っているアートグループを見つける。二人は団体に映画のワークショップを依頼し、そこでジョゼフを演じたベンジャミン・ルシューに出会う。トレダノは、「彼は本当に愛嬌のある人物だ。話をしないものの、独特な方法でコミュニケーションを取っていた。彼の両親は大変だと思う忠告してくれたが、出演には賛成してくれた」と語る。25日間の撮影中に、彼の心理状態をよく察した衣装スタッフのイザベルとマリーヌのおかげで、ベンジャミンは普段はつけないネクタイもベルトもして、靴下も履いた。
トレダノは、「僕らはベンジャミンとすぐ仲良くなったよ。彼から作品作りのアイデアをもらうことさえあった。例えば、『僕は何も悪くない!』というセリフは彼自身の言葉だ。彼は同じ会話を何度も繰り返すのが好きで、僕らもそれをそのまま使うことにした。ベンジャミンはほどなく、作品のマスコット的存在になった。ベンジャミンとの共演シーンが多かったカッセルは、「彼が楽しんでいれば安心できたから、彼のリズムを見つけるようにした」と振り返る。
ヴァランタンを演じたマルコ・ロカテッリは、本人ではなく弟が深刻な自閉症だった。誰にも相談しないで、一人でオーディションに参加したマルコは、トレダノに「僕には自閉症の弟がいる。この映画に参加することで、弟に少しでも寄り添えるかもしれない。彼のことを愛せるようになれるかもしれない」と話したという。トレダノは、「マルコはいい演技を見せてくれたし、僕らには彼が必要だった。彼の母親が僕たちに、『あなた方に全信頼を置いているわ』と言ってくれて、出演が決まった」と説明する。
介護人のディラン役を演じたブライアン・ミアロンダマは、オーディションで選ばれた。彼についてナカシュは、「誠実さがすぐに伝わってきた。彼の瞳には美しさと純粋さと同時に、乱暴さも感じ取ることができた。彼は彫刻を施されるのを待っている、いわば大理石のようだった」と称賛する。
もちろん、セットでトラブルが起きたこともあった。ナカシュは、「映画の中ではそれを一つの事実として見せたいと思ったから、どんなことが起きても最後まで柔軟に対応したよ。アドリブでね」と打ち明ける。